ツアーでペルー その37(4月27日)

バスに乗って、ホテルに戻る。
鍵を受け取って、部屋でシャワーを浴びる。Tシャツを別なのに着替える。
部屋の外に出て、誰も見てないのを確かめてから、下はトランクス一枚になって
カーゴパンツのポケットの中に入り込んだ砂を払い落とす。
太股に大きくポケットがあったりするので、無駄にたくさん砂が入り込む。
スニーカーや靴下の中も砂まみれ。朝替えたばかりなのに。
Tシャツや靴下を余分に持ってきていてよかった。


出発の時間まで、中庭に面した回廊の揺り椅子に揺られて過ごす。
冷たい風が吹きつけてきて、心地よい。
中庭には鳥を飼っている大きな檻や、
何の用途のためのものなのか分からないが
大きな甕がいくつもいくつも転がっていた。


バスに乗ってリマへと向かう。
グレイス・ペイリー「最後の瞬間のすごく大きな変化」を読む。
アメリカの伝説的な女性作家ってことになってるけど
僕はこの人のこと全然知らなくて、
翻訳が村上春樹だからというだけの理由で手に取った。
・・・すごいものを読んでしまったと思う。
こんな文体初めて。「なんじゃこりゃ!」って気分。
村上春樹が訳したくなったのもよくわかる。
文学を文学足らしめるとてつもなく大きな力が漲っている。有無を言わせない。
旅先で読むには荷が重いなー。
でも面白いから風景そっちのけで読んでしまう。


バスはリゾートホテルの敷地の中へと入っていく。
昼食。ここもまたビュッフェ・・・
クスケーニャ2本。4ドル。
最後の食事から2回目。そろそろクスケーニャも飲み納めかもと。


テーブルは若いカップルと一緒になる。
イカのサンドバギーにて無くしたと思ったデジカメのメモリーが見つかって、喜ぶ。
地上絵を見終わってホテルで気付いたのだろうか、
添乗員のKさんに伝えたところガイドのAさんがイカの飛行場に連絡して、
イカのサンドバギーのドライバーがこのホテルまで届けてくれたのだそうな。
チップを受け取ることもなくドライバーはすぐにも帰ってしまった。
ラッキーというか、それ以前にペルーの人は親切だなあ。
それまでに撮った写真がなくなってしまうなんて、デジカメが壊れるより悲惨だ。
僕の場合、それまでに撮った写真自体は無傷だからな・・・


ここはほんと、超がつくぐらいリゾートなホテルだった。
プールは青いタイルが貼られて水が鮮やかな青に見えるようになっている。
その周りを取り囲むデッキチェアにはビキニの女性が横たわる。
昼食後中を歩き回ってみる。
客室はコテージ形式。プールにはバスケットゴール。
芝生は回転するスプリンクラーで水がまかれ、
従業員が優雅にカートで食器を運んでいる。
ジムにサウナに子供用の映画館、プラネタリウムまであった。
(「The Nazca Lines」というプログラムを上映)
チェス盤を模した庭があって、白と黒の大きな駒が並べられていた。
賑やかな音楽があちこちで聞こえる。


プールの周りで子供と遊んでいた若い女性が
僕らのいたテーブルに話しかけてきた。
ペルーの人なんだけど、日本人男性と結婚して
一時期日本にいたことがあるということで流暢な日本語を話した。


リマへの移動、再開。
運転席がパワーショベルのブースみたいになっていて、
後輪がトラクター用の巨大なもの、前輪がその何分の一かの小さいやつ、
というなかなか不思議な形をした車を見かける。


本を読んでいたら、みんなが騒ぎ出すのが聞こえて本を閉じた。
事故。バスにトラックが突っ込んでいる。トラックは運転席大破。
バスの乗客なのだろう、途方にくれた人々、途方にくれるでもない人々。
その中の1人が売り物のパンをぶら下げた女性と話し込んでいる。
遊んでいる子供たち。救急車が停車している。


バスは砂漠を走る。相変わらず日差しが強い。カーテンを閉める。
平屋のブロックのような家が続く。白い壁、薄茶色の屋根。この付近の砂の色。
バスの運転手に携帯がかかってきて、万国共通の単調なメロディーが流れる。
話し始める。「シ、シ、シ、シ、シ・・・」
シは「Yes」を表す。Yes 言い過ぎだよなと思うが
日本語でも「はい、はい、はい、はい、はい」って答えてることあるよな、と思い直す。


人々が道端に立って何かを待ち受けている。
バスが来るのを待っているのか。


海。太平洋。
空も海も、わずかばかり水色の混ざった白。
島が見える。植物の生えている様子はなし。土くれだけの小高い丘。


トイレ休憩で民芸品の店に入る。
このお土産屋はしゃれたものばかりでよかった。値段も高くない。
ケーナやネックレスからインカ・コーラのTシャツまで
ペルー土産はバリエーションとして大体なんでもあったように思う。
お茶とコーヒーの無料サービスあり。
ここでもまた、クラブツーリズムの団体と一緒になる。添乗員同士話をする。
フェルトっぽい記事のオレンジ色のカバン18ドル。
Kさんに「お土産ですか?」と聞かれて、「や、自分のです」と答える。
「きれいな色が好きなんですね。いつもきれいな色の服ばかり着てましたよね」
その他買ったものとして、
手作りの、写真じゃない工芸品としての絵葉書が4ドルが2枚と2ドルが1枚。


本を読むのに疲れて、窓の外の景色を眺める。
これでペルーの風景も見納め。
真っ赤な夕日が太平洋に沈んでいく。
灰色の雲の影に隠れる。わずかに黒ずんだ水色の空に紅色の雲。


空の全てが雲に覆われ、町に灯がともされる。夜。
オレンジの灯がまたたいて、行く手にリマの街並みが広がる。
区域によって違いを持たせているのだろうか、街灯の色が白くなる。
そしてまたしばらく行くとオレンジ色に戻る。
バスの反対側を見ると、工業地帯。コンビナート。


僕は日本に帰ってから書きたいと思った小説のことを考える。
学生時代に思いついたアイデアがようやく作品にまとまりそうだ。
遠い未来を舞台にしたSF。