韓国焼肉ツアー その6

免税店の前へと戻る。観光バスが停まっている。時間が来て、乗り込む。
ほぼ満席、みな日本人。ガイドの女性の方は日本語で話す。


板門店まではソウルから北へ40分の距離。
その間、ガイドの方の解説を聞く。
(メモを元に書いているけど、聞き間違いは多々あるかも・・・)


板門店とは南北朝鮮の停戦ライン上にある緩衝地帯。横800m、縦600mの広さ。
映画では例えば、「JSA」の舞台。JSAとは、Joint Security Area の略。


1910年より1945年の第二次大戦の集結まで36年間、朝鮮半島は日本の統治下にあった。
終戦(日本の終戦記念日は朝鮮の独立記念日と言える)を迎えてすぐ
米ソを中心とした信託統治となるが、
ソ連の支援を受けた北側は共産主義化して独立、アメリカの支援を受けた南側も独立、
朝鮮戦争全土を赤化せんとする北朝鮮側が奇襲攻撃を行うことで1950年に朝鮮戦争が勃発する。
南側は国連軍が味方につき、北側は中華民国の支援を受ける。
南北に分断された国家にて、映画「ブラザーフッド」で描かれたように
家族や親類同士が戦い合い、殺し合った。
押しつ押されつを繰り返すうちに膠着状態となり、
1953年にトルーマン大統領の指揮の下、停戦の合意がなされる。
板門店」という居酒屋にてなされた会談は実に1076回にも及び、
その最後の会談はたった11分のみ。
しかし、この会談から先、今に至るまで南北は分断されたままとなる。
このときの停戦ラインがいわゆる「38度線」となる。
余りにも急に分断が決まったため東西ベルリンのように壁を建てることはかなわず、
一定の間隔で立て札を立てただけ。しかもその立て札も古びてしまった。
森と田畑が広がるだけ、その周りに村があるだけ。


このとき取り決めた非武装地帯のことを「DMZ」(DeMilitarized Zone)と呼ぶ。
朝鮮半島を人体に例えて上半身を北朝鮮、下半身を韓国としたとき、
DMZ」いわゆる非武装地帯は腰に巻いたベルトに当たる。
しかしそのベルトは南北4km、東西に241kmに及ぶ。
武装地帯のはずなのに、それは「人体に対する武装」との解釈で
北朝鮮も韓国も互いに地雷を埋めまくった。
よっていまだ地雷が無数に埋まったまま。
(そんな場所を、僕らは今バスに乗って向かっていたわけだ)


日本人による支配について、ガイドの方は
悲しいとか悔しいという以前に反省の気持ちを強く抱いていると語る。
当時行われたオリンピックで金メダルを取った選手がいたのだが、
それは記録上日本のメダルとなった。
日本人の苗字に変えさせられた。
「金」さんは「金田」となり、「林」さんは「小林」となる。


バスは漢江沿いを走る。
ソウル市郊外を過ぎた辺りだろうか、38度線に沿うように流れるイムジン河と合流する。
見ると川沿いに有刺鉄線が張られ、何百mかおきに見張り台が配置され、
拡声器や望遠鏡が設置されている。
川岸は草原か田畑となっていて建物が建っていることはない。草は短く刈り取られている。
北朝鮮から泳いで渡ってくるスパイがいないか、見張るため。
冬、雪が降るとこれら田畑・草原は軍隊の演習場となる。


ガイドの方の世代は北朝鮮の国民は人間ではない、「見分け方がある」と教えられて育ってきた。
「山から下りてきたおじいさんがキョロキョロしていて、靴が土で汚れている」
「タバコの値段がわからない」
「深夜にラジオを聴いている」
今はたぶん違うのだろうけど、昔はそういうことが、本気で教えられていたのだ。
子供たちは、北朝鮮の国民を「おばけ」のようなものだと思った。


離散家族の問題は解決されないまま。
ガイドの方の祖父も北朝鮮にて暮らしている「はず」だとのことだが、
どこに住んでいるのか、今も生きているのか、何も分からない。
「地球の反対側よりも遠いのです」


イムジン河」のテープがかけられる。
フォーククルセダーズが歌ったのだったか。
発売されることのないまま、発禁扱いとなってしまった幻の歌。
僕は生まれて初めてこの曲を聞いた。
(映画「パッチギ」で重要なモチーフになってましたよね)


一部を引用します。
朴世永原詩・松山猛訳詞・高宗漢作曲

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北の大地から 南の空へ
飛び行く鳥よ 自由の使者よ
誰が祖国を 二つに分けてしまったの
誰が祖国を 分けてしまったの

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サビの部分で「イムジン河 水清く とうとうと流れる」と歌われる。
どこまでも果てしなく広がる灰色の川と、草原の緑色。
川の向こうは、北朝鮮。そう、すぐ向こうに。
野原と森の他にこれと言って何もない。遠くに村のようなものが見える。
この風景と一緒に聞くのならば、2度と忘れられない曲になる。
少なくとも、僕はそう。
一生、頭から離れないと思う。


全長256kmの長さ。そのうち2/3は北朝鮮を流れる。
人が立ち入ることがないため、魚や動植物の宝庫であるという。
その季節ともなると渡り鳥たちが無数に集まる。