ストーンズを聞いた夜

つらいことがあった。


家に帰って、ストーンズを聞く。
一番好きな「Black and Blue」


ミック・ジャガーの声がセクシーだけど切なくて寂しげで、
キース・リチャーズのギターがルーズなようでいてタイトで、タフで。
全般的に隙間が多い音で、その間合いの絶妙さ加減がものすごく心地よい。
大人になったストーンズだからこそ出せた音だ。
ぶっきらぼうでそっけないようでいて、懐は広い。
大人ゆえの優しさ、大人ゆえの厳しさ。
それがきちんと音に出ている。


余りにも乾ききった「Cherry Oh Baby」にほろっとしそうになる。
簡素で何の飾りもない、不器用なレゲエ・チューン。
このアルバムの泣きどころは「Fool To Cry」や「Memory Motel」ではないよね、絶対。
「Cherry Oh Baby」
だけど僕は泣かない。


音楽の力は素晴らしい。
泣きそうになるのをぐっと堪えることができた。


100枚に1枚ぐらいの割合で、
この僕を救ってくれるアルバムが世の中に存在する。
その1枚に出会いたいがために僕はCDを買い続けているのだ。
そう思った。
ようやくわかった。
1枚や2枚、あるいは10枚、20枚あればいいのではない。
悲しいことっていくらでもある。
その時々で思うこと、心に刻み込まれることは全然違う。
そしてそれを癒してくれるアルバムが常に同じなわけないのだ。


僕が僕であるために
私が私であるために
誰もがそのためのプロセスを探し求めている。
それが僕の場合、音楽を聞くことだったわけだ。
音楽と出会えてよかった、身の回りに音楽があってよかった。
今、心の底からそう思う。


今日という日を生きて、明日もまた生きていく。
その当たり前と言えば当たり前なことを人並みにやり遂げるために
僕は今日も音楽を聞くのだ。
夜遅く帰ってきて、朝早く起きて。
その時々で、僕が出会いたいと思った音楽を。


ありがとう。
今回の出来事についても僕は逃げ出さない。目を背けない。
きちんと向き合うつもりだ。
その覚悟ができた。


ありがとう。

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そして僕は今「Black and Blue」が終わって、「Hot Rocks」を探す。
「Let's Spend The Night Together」と儚げに叫ぶミック・ジャガーがなんだかとても切ない。
僕のすぐ側で歌っているように聞こえる。


最後に僕は「無情の世界」を聞く。繰り返し、繰り返し。
オリジナルのタイトルは「You Can't Always Get What You Want」
サビでこんなふうに歌われる。


「You can't always get what you want
 But if you try sometimes you might find
 You get what you need」


君が欲しいと思ったものは必ずしも君のものになるわけではない。
だけど諦めないでいたら、いつの日か手に入れることができるかもしれない。


ここ何年か僕は、この曲が一番好きだ。