不安

駅を出て大通りを渡って、いつものコンビニの前を通り過ぎて・・・
そんなふうにして夜、家に帰ってくる。
そこの路地を右に入って行けばアパートの自分の部屋が。


ふとこんなことを思う。
このまままっすぐ歩き続けていったらどうなるだろう?
どこに行き着くだろう、ではない。いったいどうなるのだろう?


歩き出してみる。
すぐにも見知らぬ風景となって驚く、むしろ怖くなる。
二つ目の四辻で僕は引き返した。
ここはいったいどこなのだろう?と思った。
10年近く住んでいて、僕は目と鼻の先を歩いたことがなかった。
自転車で通り過ぎることはいくらでもあった。
しかし自分の足で歩いて、その目線で周りを眺めるというのはそのときが初めてだった。
ものすごく不思議な気持ちがした。


ちょっと進んだ先のことを僕は知らなかった。
多くの人にとってそうなのだと思うんだけど、
住んでる町というものは自分の家が終点なのだ。
ほんの少し離れた先のことを知らない人がほとんどなのではないか。
働き出すと家と駅を往復するだけの毎日。
周りのことにわざわざ興味を持つことはない。


昼歩けばまた、違うと思う。
夜になって初めて歩く、家の近くを初めて歩くというのは
なんとなく不安を掻き立てるものだ。
家という自分を守ってくれるものから遠ざかっていく感覚。


夜歩く。頭の中の地図を広げていく。
そういう作業を続けていたら、いつか気がおかしくなるのではないか?
やがてそれは何時間も何時間も果てしなく続く行為になる。
きりがなくて、そしてどこにもたどり着くということがない。
夜が開けて、自分の部屋に戻るしかなくなって。
そういう眠れない夜を何度も繰り返して。

    • -

昨日の夜、真夜中に目が覚めた。理由はわからない。
雨が降っていた。しばらくの間その雨の音を聞いた。


時計を見ると午前3時。
そこから先眠れなくなった。
夢うつつの時間を過ごす。
浅い眠りの中でたくさんの夢を見る。


僕はとある部屋の中で眠っていて、そこには誰か見知らぬ人がいる。
泥棒?起き上がりたいのだが、起き上がれない。金縛りにあったかのよう。
どうにかこうにか起き上がる。
そこはいつもの自分の部屋ではない。
だけど僕はその場所を知っていることになっている。
僕に接してくる人たちも普段僕が知っている人ではない。
何かがおかしい。よそよそしい。
だけど彼らは、彼女たちは、
そのとき見た夢の中では知っている人ということになっていた。
たわいのない会話を交わし、ぼくはその夢の中での「その日」を過ごした。
もちろん、今となってはどういう夢だったのか全然覚えていない。
その居心地悪い感触だけが今も残っている。


そんな夢を2回見た。2回繰り返した。
僕は全く違う部屋で目を覚ました。全然違う人々と接した。
そしていつのまにか本格的に眠りの中へ・・・
やがて目覚ましが鳴って、僕は起き上がって着替えて会社へと向かった。
午前6時。とても眠かった。
でも、これ以上眠りたくはなかった。
3回目、同じ夢を見そうで。


夢の中でたった1回だけ出会う人々。
彼ら/彼女たちはどこから生まれてくるのだろう。
そんなことを考えながら1日を過ごす。
そんなとき、得体の知れない不安をどことなく感じる。