Gazz ! に以前書いたレビュー(洋楽編)

引き続き、洋楽編。

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■[音楽] The SmithsThe Queen is Dead」
http://www.amazon.co.jp/dp/B000002L9J/


The Smiths の代表作。
「There is a light that never goes out」や
「Some girls are bigger than others」といった有名な曲が収録されているが


(「ある女の子は、ある女の子よりも背が高い」とサビでそのまんま歌う後者は
 The Smiths の人を食ったような感覚を最も体現していて秀逸)


僕が思うに、最も興味深いのは1曲目のタイトルトラック。


ギュイギュイギュワンギュワンかき鳴らされるギター。
性急にばたついて叩きまくってるドラム。
スピード感、疾走感に溢れているはずなのに
そこで描かれる風景は何一つ変わらない。1mm足りとも前進しない。
同じ場所をぐるぐると闇雲に回っているかのようだ。
なのにものすごく焦ってるのだけは伝わる。
焦っている自分を客観的に冷笑しながら、
もう1人の自分は絶え間ない不安に陥っている。


そしてこんな歌詞が歌われる。
「Life is very long, when you're lonely」


1人きりでいるのなら、人生なんて気が狂いそうなぐらい長いよ。


退屈な人生、退屈な毎日。
その全てを憎む気持ち、いとおしむ気持ち。
この混乱した感情を「ポップ・ミュージック」の形を借りて吐き捨てる。
長い長いロックの歴史の中にいつのまにか現れ、そして儚く消えていった
この奇妙で鬱屈した、スミスというありふれた名前をつけられた
か弱いモンスターのことを僕たちは忘れるべきではない。

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■[音楽] Gang of Four「Entertainment!」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00003WG0M/


ニューウェーヴ、パンクといった狭いジャンルに囚われず、ギターロックの最高峰。
ここまで「焦燥感」というものを鳴らせた音は無い。

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不機嫌でぶっきらぼうで「金よこせ」「おまえは死ね」とか言ってて
早い話が血気盛んで鬱屈したチンピラなのに、
それと同時に繊細で壊れそうな、バラバラになってしまいそうな、自分がいる。


そしてそんな自分をクールに見つめている自分がいる。
(ここが大事。このアルバムが他の凡百のロックよりも何百万光年も優れているのは、ここ)


歌詞の一説に「The Change Will Do You Good」ってのがあって、
ごくごく当たり前のことなのに
こういうロックで吐き捨てるように言われると
強く心に突き刺さってしまう。

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■[音楽] New Order
http://www.amazon.co.jp/dp/B000002LCK/


New Order の曲はどれも美しい。
素顔はいい年こいたシニカルな大人たちのはずなのに、儚くて、寂しげで。
僕はこれをずっと長いこと、「傷ついたものだけが持つ優しさ、美しさ」
だと思ってきた。


(そう、Joy Division のボーカル、イアン・カーティスが首を吊って自殺した後に
 残されたメンバーが始めたのが New Order だった。
 以来、80年代半ばまでは全ての歌がイアン・カーティスの追悼のようであり、
 その影がちらついていた。振り払うかのように、80年代後半の彼らは
 享楽的なダンス・ビートへと接近していった)


でも最近になって別なことを思うようになった。
傷ついた人がただそれだけで優しさを身に付けたり、美しくなったりはしない。
それは全く無関係な出来事だ。
傷跡は残り続けるし、そこにまとわりつく感情は負のものでしかありえない。


どうして彼らの音楽は
儚くて、寂しげで、同じように寂しい気持ちを抱えている僕らの背中を
そっと押してくれるのだろう?
わからなくて、聞き続けていたら答えがわかりそうで、
今日もまた僕は New Order を聞いてしまう。

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以前シングル集が出たけど、
往年のファンならばやっぱ「Substance」でしょ?
Substance」をリマスターして再発、
さらにその続編(「Technique」以後)を出してもらえたら
それが一番嬉しかったのに。

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■[音楽] ヒッコリー・ハウスのユタ・ヒップ Vol.1
http://www.amazon.co.jp/dp/B0002FQM5A/


シンガーソングライターをシンガーソングライター足らしめているもの。
それはギターやピアノの弾き語りという音の在り方というよりは
ある種の佇まい、音に向かう姿勢なのではないかと最近思う。
一言で言えば「メランコリー」
この世の全てを知り尽くしたかのような憂い。
いくらぬぐっても塗り重ねても消えないような孤独。
それらが一切の虚飾を剥ぎ取られて、
自らの声と必要最小限の音によって形作られる音楽。
呟くように、囁くように、描き出される心の叫び。


そしてそれは個人的な孤独ではなくて
人という生きものが共通に抱えている孤独にまで踏み込んだとき、
より美しいものとなる。


Joni Mitchell 「Blue」
Carole KingTapestry
Tim Buckley 「Happy Sad」
名盤とされるアルバムのジャケットはみな、
その歌い手が憂いを帯びた表情で写っている。
この世の全てを知り尽くしたかのような、恐ろしい表情をしている。
今の僕なんかよりも全然若い頃のものなのに、
彼らは/彼女たちは、自らの心の中をさまよっているうちに
そこにこの世ならぬものを、早い話が地獄を、見出してしまった。


Jutta Hipp にも同じことが言える。
ジャンルで言えばジャズということになるし、
ピアノを弾いているだけであって歌っているわけではないが、
僕はそこに Joni Mitchell に近いものを感じてしまう。
「Blue」のジャケットで映っている Joni Mitchell
表情が全くもってそっくりだ。
同じだけの孤独を、抱えている。

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■The Free Design「The Now Sound Redesigned」
http://www.amazon.co.jp/dp/B0009WV2VU/


「ソフトロックの音楽的な最高峰」
ジャズとクラシックの知識に裏付けられた
緻密なアレンジ、優美なハーモニー、知的なスキャット・・・


などなどと語られる Free Design のリミックス集が出た。
そもそもこのジャンルの音楽でリミックスされるってのは
このグループが初めてではないだろうか?
路線を推し進めてラウンジまで行くとたくさんありそうだけど。


Millenium, Parade, Roger Nichols & The Small Circle of Friends
といった辺りはなんか手を触れちゃいけなさそうな聖域だし、
Association は単なるヒットチャート向けボーカルグループだしなあ
(↑僕は好きだけど)
ってとこで Free Design なんだろうか?


同じように Van Dyke Parks「Song Cycles」The Beach Boys「Pet Sounds」
といったポップの名盤も
いくら尊敬を集めていてもリミックスというかリコンストラクションされることはない。
不思議といえば不思議だけど、当然といえば当然か。


話を元に戻す。
評価が高くて聖域だからリミックスされないのではないのだと思う。
Association も Parade もその時代の音を切り取って真空パックしているような音。
リミックスしたって仕方がない。
その当時作られた音が最も曲の雰囲気を掴んでいるのは当たり前なのだから。
そういうことなのではないか。


その一方で Free Design は他のグループよりも匿名性が高くて、
実は時代というものを意識していない。開かれている。
容易に、今この時代にリンクしていける。


これは前者(Association)が指向したのが若者たちによる
具体的な利用シーンを想定したポップ・ミュージックであって、
後者(The Free Design)が指向したのが純然たる「音楽」だからではないか、
と僕は勝手に想像している。
実際のところはどうだったのか?

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気になる、リミックスした人たちはと言うと・・・
Peanut Butter Wolf, Stereolab & The High Llamas,
Chris Geddes of Belle & Sebastian and Hush Puppy,
Nobody feat. Ikey Owens of Mars Volta,
Super Furry Animals , Kid Koala & Dynamite D.
などなど。


アニメ / 実写問わず「不思議の国のアリス」をこの時代に映画化するなら
はまりそうな音です。