「There Will Be Blood」

30日、会社の帰りに「There Will Be Blood」を見に行った。
http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/site/index.html


日比谷シャンテシネはほぼ満席。驚いた。
アカデミー賞の作品賞にノミネートされていたから?
監督のポール・トーマス・アンダーソンのファンがあんな大勢いるとは思えないし。
主演男優賞をダニエル・デイ=ルイスが獲得したからかなあ。
とはいえ、元々ダニエル・デイ=ルイスのファンだった人が
新作が出たから見に行った、というのでもないだろう。


素晴らしい映画だったと思う。見応えあり。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の前作「パンチドランク・ラブ」が
コメディー・タッチだったのと打って変わって骨太の作品。
奇を衒ったところ全く無し。純然たる正統派。
この人は次、どういう作品をどんなふうに撮るのだろう?
マグノリア」も「ブギーナイツ」もそれぞれ全然違う作品だった。
そういう意味では毎回作風が変わる。
だけど常に一本、ポール・トーマス・アンダーソンとしての筋を通している箇所がある。
言語化できるレベルでは済まされない映像・映画としての何か。
一目見れば分かる、何か。
どの作品であっても
「人それぞれ人生というものがあって、それは誰しもが少しばかり奇妙なものである。
 そしてそれを貫くべし」
というメッセージが随所で伺えるんだけど、そういうのとはまた別の。


その数日前に見たということもあって
僕としてはどうしても「I'M NOT THERE」のトッド・ヘインズと比較してしまう。
トッド・ヘインズには無くてポール・トーマス・アンダーソンは持っている何か、というものがある。
これまたうまく言えないんだけど。
真夜中、炎上した油井の暴力的な美しさ。
弟と名乗る男性と過ごした真夏の海辺の美しさ。
先日「パラノイドパーク」で書いたことと一緒なんだけど、
見ててハッとする瞬間、
映画それ自体が秘める美しさ、暴力、イノセンス、・・・
様々な素性があらわになる瞬間をその映画が持っているか。
監督にはそのビジョンがあったか。それを提示する才能があったか。
映画が成立する瞬間を映画そのものが内在しているかどうか。
映画が作り手の意志を超えた生き物、もっと言うとバケモノになろうとしているか。
(そこまで来て初めて、映画は鑑賞するものではなく、体験するものになるのだと僕は考える)


「There Will Be Blood」はそういう生き物にはなりきれず、
まだポール・トーマス・アンダーソンの手の内にあるんだけど、
ところどころ上に挙げたような突き抜ける瞬間はあったように思う。
逆にトッド・ヘインズはそういうとこ、無頓着なのが魅力かも。

    • -

話変わって、この作品の魅力はやはり何と言ってもダニエル・デイ=ルイス
ダニエル・デイ=ルイスを見るための映画と言い切ってしまってもいい。
すごいよね。今、地球上で最も優れた役者、褒め言葉としての役者バカなんじゃないかな。
すごすぎて他の役者が霞んで見える。全員書割の脇役。
前作「ギャング・オブ・ニューヨーク」がストーリー上の主役はディカプリオだったのに
完全に食ってて、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたのは
ダニエル・デイ=ルイスだったという事実。


2時間40分と昨今の映画にしてはかなりの長尺なのに
ダニエル・デイ=ルイスに釘付けになってるうちに終わってしまってるんですよ。
むしろ短いぐらいに感じた。
たった1人の役者が映画を成立させ、その緊張感で支配してしまう。
それって役者がすごけりゃどういう作品でも可能かって言うとそんなわけなくて。
器=作品を用意して監督が迎え撃たなくてはならない。
がっぷり四つに組み合って。
とはいえ今回は若干ダニエル・デイ=ルイスの方が力が強かったか。


それにしてもよく出たなあ、
ポール・トーマス・アンダーソンなんてまだ「若手」じゃん、と最初思った。
映画を見終わった後では
ポール・トーマス・アンダーソンのポテンシャルの高さが伺えたものの
「異質な組み合わせ」という印象は変わらず。
結局これって異種格闘技ですよ。

    • -

あと、Radiohead のギタリスト、ジョニー・グリーンウッドの音楽も良かったですね。
Radiohead というとどうしてもトム・ヨークが取り沙汰されるけど、
BBC専属の作曲家(ジャンルは現代音楽ってとこかね?)にも選ばれた
ジョニー・グリーンウッドというもう1つ別の次元の才能が居合わせている、この不思議さ。
イギリスの作曲関係の賞を取ったという気になる作品「Popcorn Superhet Receiver」も
エンドクレジットを見たら使われてたみたいだけど。
サントラを見ると入ってるのかどうか分からず。
探してみたら配信しているサイトがあった。
http://idiotcomputer.jp/news/?itemid=2163


ジョニー・グリーンウッドについて調べていたら興味深いものを見つけた。
「Rolling Stone」誌の投票で、
2007年「史上最も過小評価されているギタリスト」で10位、
2003年「史上最も偉大なギタリスト」で59位にランクインされているという。
http://narinari.com/Nd/2007108020.html
でも、100年後には現代音楽の作曲家として人々の記憶に残っているのかも。