すれ違う

こういうことがあった。
4月の初め頃だろうか、東京ガスの請負業者からの通知がポストに入っていた。
ガスメーターの交換を行いたいのですが、不在でしたので連絡ください」的な内容。
「交換費用は無料」「完全室外作業」「20分程度」とある。
「だったら僕の了承がなくたってやればいいじゃん」
東京ガスで必要として取り付けて、東京ガスの人しか使わないもんでしょ?」
「だけど交換作業の際には立ち合いが必要で、ってなると面倒だな」
なんてことを1秒間ぐらい考えて、「ま、いいか」と忘れてしまう。


4月の後半になってまた通知が入っていた。同じ連絡票だった。
「だからさ、僕の持ちものじゃないんだから、イチイチ聞かなくったっていいじゃん」と思う。
というか、これが
「連絡して交渉したら本来交換費用が発生するのが無料になる」となったら話は変わる。
すぐ電話する。
そういうのってないですか?
元々無料で提供されていたものに対して労力を払うことの、多大なる億劫さ。
「むしろ損してんじゃん」っていう。
なのでほっときたくなる。
しかもたぶん、電話するとしても受付時間は平日の日中がメインだろうし。
会社から掛けるとなるとなぜかさらにめんどくさい気持ちになる。


電話しようがしまいが無料だというのなら、電話しなくてもやっといてほしい。
「うちのメーターは断固交換不要」って変わり者はいないでしょ?
そもそも僕やあなたの持ちものじゃないんだし。


で、先週の土曜。
家で音楽聴きながら文章を書いていた。
ドアをトントンと叩く音がする。
曲の中のフレーズ?と思う。
しばらくするとまたトントンと聞こえてきた。
住民の神経を逆なでしないように、優しく、そっと。
勘が働く。もしかしてメーター交換の業者かも。
だけど宗教の勧誘かも、という可能性もある。
僕の部屋のドアは2階にあって、インターホンは階段の下の1階にある。
宅配便の業者はその辺り敏感だから絶対インターホンを見つけて、使ってくる。
インターホンを使わずにノックしてくる人ってのはこれまでたいがい宗教関係だった。
なので絶対出ないようにしている。


再度ノックされる。ほっとく。
僕が問題を起こしているのだったらもっと強く叩いたっていいのだし、
ドアの向こうから「オカムラさん、メーターの件でお伺いしたのですが」と呼びかけたっていい。
そしたら出てもいいかな、と考える。
しかし何回か弱々しく当たり障り無さそうにノックが続いてそれっきり。


後で下に降りて行ったとき、やはり連絡票が入っていた。
つうかさ、インターホンってガスメーターの真横にあるじゃん。
気づいてよ、それぐらい。
なんだかなあと思う。なんか、こう、協力する気が萎えることばかりしてくる。
こちらが求めてない無駄な配慮ばかり積み重なって、距離を置きたくなる。


その日の夕方インターホンが鳴って、出てみると現場主任的な力強い男性の声。
業を煮やして遂に切り札投入か。
「メーター交換の件、連絡票をポストに入れておいたのですがご覧になられてますか?」
「ええ」
「来週の月曜、交換作業に伺いたいのですがよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
そんなこんなでやり取りはあっさり終了。めでたく一件落着。


・・・であるが、こっちはいい加減なもんで、その後チッと舌打ちして
「なんだよ、最初からインターホンで話してくれればいいのに」
「連絡票を投函して、そちらから連絡してください、なんて横着しなきゃいいのに」
なーんて考える。偉そうにも。




月曜の夜、会社から帰ってきてメーターを見ても変わった様子がない。古いまま。
どうなっているのだろう?
火曜の夜見ても変わらず。
なんかまた、めんどくさいことになってそうな予感。