ニューヨーク その8(読んだ本)

ニューヨークには何の関係もないけど、今回の旅行で読んだ4冊について。

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中上健次枯木灘
http://www.amazon.co.jp/dp/4094026118


「秋幸サーガ」竹原秋幸と実の父浜村龍造を中心とする三部作の二作目。
圧倒的だった。日本文学の到達点と評されるけど、僕もそう思った。
出来事、感情、血脈。同じことが言葉を変えて何度も何度も繰り返される。
それが土着的な薄暗い凄みを生み出す。
そしてそこにその時々の感覚であるとか発言とか様々なものが入り乱れて。
伝承文学ってこうだよな、それを元にしたラテンアメリカ文学もこうだよな。
かつて中上健次は「日本のフォークナーになる」と語ったが、確かにこれはフォークナーだ。
フォークナーを継承して、どころの話じゃない。
内側から食い破って投げ返した。
この世界に残されたあらゆる路地に。
文庫のカバーの折り返しをたまたま読んでみたら、
この作品を中上健次は28歳の時に書いたということを知ってショックを受ける。

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乙一「ZOO」
http://www.amazon.co.jp/dp/4087460371


今回の期待外れ。
この程度のアイデア、この程度の文章力、いったい何が面白いというのだろう?
きれいに読みやすく書けてはいるが、それだけ。
30分で100ページ読めて、何も残らない。
たぶん、ライトノベルというジャンルが僕に合ってないのだと思う。
この程度で「天才!」と呼ばれるならば、この国には1万人ぐらい天才がいることになる。
成田空港の本屋で買った。
山本文緒の「プラナリア」と奥田英朗の「イン・ザ・プール」と迷ってこれにした。
ものすごく後悔した。

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保坂和志カンバセイション・ピース
http://www.amazon.co.jp/dp/4101449244


大傑作。これは素晴らしい。「枯木灘」以上のインパクトがあった。
500ページと分厚いのに、3日ぐらいで読みきってしまった。
これはこれで「日本文学の到達点」だと思う。最初の10ページ読んで確信した。
何年も前に買って、ずっと部屋の片隅にほったらかしていた。
もったいないことをした。もっと早く読んでおけばよかった。
「古い家にみんなで集まって住んで、昔のことをあれこれ取り留めなく思い返す話」
「幽霊はいるのかどうかってのをアーデモナイコーデモナイと思いつきで議論する話」
「死んでしまった猫のことを考えてクヨクヨしてる話」
「その年の横浜ベイスターズがいかにダメだったかという話」
としか言いようがないんだけど。
涸れた井戸の底を黙々と掘り進む冷徹な観察力が
溢れ出す豊穣な水源を探り当てたというか。
主人公たちの交わす会話が温かく、美しく、ファニーで、
掛け替えのない一瞬を永遠に閉じ込めたかのよう。
何がどうすごいかってのは読んだ人にしかわからないので、
日本文学の行く末が気になる人は読んでみた方がいいです。

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村上春樹シドニー!(コアラ純情篇)」
http://www.amazon.co.jp/dp/4167502054


海外に出るときは面白いことが確実な本を持って行きたいもので、
そうなると村上春樹のエッセイ。未読のものがあると必ず選ばれる。
「地球のはぐれ方」が文庫になったばっかりで、今回それと迷ったけど
薄い方がいいなあと「シドニー!」の上巻にした。
面白いねえ。なんでこんなに面白いのかよくわからない。
年々分からなくなってくる。
日本に帰ってきて丸の内線の中で読み終える。
荷物を部屋に置くとすぐスーツケースをトランクルームに返しに行って
その足で下巻の「ワラビー熱血篇」を買いに行った。
そういえば、後半泊まっていた大学の後輩の部屋はルームシェアしていて、
後輩は家主の青年に「村上春樹のエッセイ読む?」と聞いていた。
海外で暮らす日本人に最も読まれている作家は村上春樹かもしれない、と思った。