コカコーラの自販機

僕らが今仕事場としている場所は会議室にギュウギュウと人が押し込まれていて、
僕のいる部屋は元々休憩室みたいなところに机を持ち込んでいる。
背後にコカコーラの自販機。


時々、コカコーラの制服を着た若い男性が汗だくになりながら
カートに箱詰めの缶を運んできて、中を開けて補充して帰っていく。
ついでに空き缶・ペットボトルも回収していく。
先週ふと気になって、「失礼しました」と帰ろうとする若い男性を呼び止めて
「これって中のラインナップ変えられるんですか?」と聞いてみた。
朴訥そうな若い男性は、話しかけられたことに驚きながら、
「すみません。自分にはよく分かってないので、電話して確認してみます」と携帯を取り出す。
「いやいや、そこまでしなくていいですよ」と僕は言う。
「そうですか・・・」と彼はカートを引いて帰っていく。


観察していると、彼らは2往復している。
最初の2人連れが自販機の中の状況を確認する。
年かさの1人がリーダーで、もう1人の若造が空き缶・ペットボトルを回収していく。
どのコンビもそうなっている。
このとき、どの缶を何本補充すればいいかチェックするようだ。
携帯しているバーコードリーダみたいな端末を操作して帰っていく。
その後別な1人、3人目がカートを押してやってきて自販機を開けて補充する。
この2往復目の彼は単なる運び屋に過ぎず、現場の裁量はなさそうだ。


僕が話しかけて10分ぐらいした頃だろうか、再び彼が現われた。
汗だくになって、息をハアハアと切らして。
「確認したところ、ご要望に応じて変更可能とのことです。
 ただし、今日は詰め替えが終わったので次回からでお願いします」
僕は例としてコーラの500のでかいサイズの缶を入れてほしいと最初言ってみた。
じゃあそれでとなりかけて、僕の一存で入れ替えするわけにもいかないなと
「要望を取りまとめて、次、お伝えします」ということにした。


世の中、何事も聞いてみるものなんですね。


朴訥な青年に好感を抱く。
この暑いさなかあちこち回って汗みずくになって力仕事。
思いつきで僕の言ったこともきちんと問い合わせて返答する。
「ああ、仕事ってこういうものなんだよなあ」と思う。
幸あれ。
僕なんかよりも、彼みたいな若者こそが幸福になってほしいと思った。
一生、コーラの運搬をやってるわけにもいかないだろうけど。

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なぜ2往復かって言うと、
何も考えずにそこで売っている全部の種類の缶の
持てるだけの在庫を全て1度に持ってくるわけにもいかず、
かと言って平均的な分量で少しずつ持って来ても足りなかったり余ったりで。
1往復目が必要な数量を把握して、2往復目がその分量だけを運んでくる。
これってなんらかシステム化して1往復にすればいいんじゃない?
自販機をネットでつないで。
IT業界で働く者として、そんなことを考えてみる。
・・・実はもう既に世の中にはあるんですね。


コカ・コーラのプレス・リリース。
http://www.cocacola.co.jp/corporate/news/news_000340.html


あの日の彼のような若者たちの仕事が楽になるのか、
それともコスト削減に成功して仕事がなくなってしまうのか。
どうなるんだろうな・・・、とちょっとビターなことを考えてみた。

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今週になって、1往復目で現われた青年が
「先週、こちらで自販機の商品の入れ替えの要望があったと言付かってきたんですけど」
と僕に向かって言う。
ちゃんと連絡事項が引き継がれている。
偉いもんだ。


いや、これって普通のことなのか?
IT業界だと、こういうのかなりグダグダなんだよね。