マノエル・ド・オリヴェイラ

この前の3連休と先週末と、ポルトガルの監督マノエル・ド・オリヴェイラのDVD-BOX3枚組、
「ノン、あるいは支配の空しい栄光」「神曲」「家宝」を見た。


マノエル・ド・オリヴェイラは紹介時によく、現役最高齢の監督とされる。
なんと今年100歳!
サイレントの時代から撮り始めて、
90年代に入ってからはほぼ1年に1本という驚異的なペースで監督作品を世に放っている。
今回見た3本はそれぞれ、
「ノン、あるいは支配の空しい栄光」(1990年/82歳)
神曲」(1991年/83歳)
「家宝」(2002年/94歳)
ということになる。すごいとしか言いようがない。
昨年のカンヌの、60周年記念ということで
世界の名だたる監督たちが3分の短編を作るという企画があったんだけど
(日本では北野武が選ばれて話題になった)
そこにも作品を寄せていた。
これが最新作になるのかな。
調べたら誕生日が12月。来年作品を発表したら100歳で監督した作品ということになる。
達成したらこの記録、当分破られることはないだろう。


名前は前から知ってたんだけど、特に出会うことはなく。
会社のSNSで「面白い映画ないですか?」って質問をしたら
代表作「アブラハム渓谷」を挙げている人がいて、興味を持った。
「へー!この会社でも知ってる人がいるんだ!?」と。
その「アブラハム渓谷」を入手してみようとしたのだが、
単品のDVD、ないしはDVD-BOXセットは共に既に絶版でプレミアがついていて断念。
後者は amazon で10万近い価格となっている。
もう1つのDVD-BOXはまだ入手可能ということで取り寄せてみた次第。


いや、ほんと見てよかったですよ。
特に、上流階級の虚飾に包まれた生活を描いた「家宝」
これ、最初の1フレームを見たときから、「これはとんでもない映画だ・・・」と。
あまりの芸術的高みに背筋をゾクゾクさせながら見た。
映画としての完成度の至高というか極北というか。
神曲」もまた、何よりもまず、その内容が極北だった。
精神病院とされている優雅な屋敷の中で患者たちが、
ニーチェの言葉を引用しながら会話し、聖書やドストエフスキーの場面を演じるという。


どの作品もそうなんですが、
最近の映画で多用される手持ちカメラで揺れる、臨場感溢れるショットなんてものが出てこない。
ほぼ静止フレーム。パンとかカメラの移動も必要最小限。
構図というものが強く意識されている。
絵画→写真→映画という表現の進化に対する意識が、全ての根底にあるんだろうな。
だから、卑しい、低俗なショットは出てこない。
全ての場面が厳格にして、崇高。


そしてそれらの映像に付き従う、全編を通した静謐さ。
その静謐さを常に意識させるヒリヒリとした緊張感。
村人たちが賑やかに音楽を奏でる祭りの場面であろうとも、
「ノン、あるいは支配の空しい栄光」に出てくる戦場の場面であろうとも、
何かとてつもないものに常に見つめられているような、
虚空から照らされるような静けさに満ち溢れている。


ここまで「芸術」というものを意識した映画、映画監督って久々だなー。
恐れ入った。これで今年100歳なのだから。
作品の雰囲気も全然枯れてない。むしろまだ若い泉のよう。
人知れずひっそりと湧き出る、清らかにして突き刺すように冷たい、水の流れ。
その水面にはこの世界の全てが、映し出されている。