「チェ 28歳の革命」

水曜の夜、「今から本社戻って打ち合わせするから」と偽って映画を見に行った。
定時後なのでサボってるわけではないのですが、あれこれ佳境なので心苦しく。
まあ、この頃はあれこれ小さな意見の食い違いが積み重なって
「あ゛ー」とか「う゛ー」って言ってばかりだったので気分転換に映画もいいんじゃないかと。
自分で自分に言い訳してみる。


小雨の降る中、神保町から銀座まで歩いて有楽町マリオン日劇PLEXへ。
今週が最終日だったのでガラガラかなと思っていたらチケット売り場は長蛇の列。
20代から40代までの女性ばかり。何が目当てだったのだろう?
残り2つは「地球が静止する日」と「K-20」だった。
僕の前にいた人たちは窓口でことごとく「チェ 28歳の革命」と言ってて。
あ、女性が多いのは水曜ってレディースデーだったからか。


劇場に入ると7割ぐらいの入り。最終週でこれだけ入っていたら十分ヒットでしょ。
終わらせるのもったいないね。すかさず2部作の後編やるんだろうけど。
あまりヒットしないだろうなあと
最初から1部+2部セットにした上映スケジュールを短めに切っちゃってたんだろうな。


チェ・ゲバラの生涯を堂々4時間に渡って描くというもの。
その前半。28歳から30歳までの、キューバに潜入して革命軍を指揮して、
ハバナを制圧するまでの2年間にフォーカスを当てる。


監督はスティーヴン・ソダーバーグで主演はベネチオ・デル・トロ。
トラフィック」でアカデミー助演男優賞を獲得した黄金のコンビ。
いや、これもよかった。前回以上にがっぷり四つに組み合った感あり。
ベネチオ・デル・トロは何見てもいいんだけど、
スティーヴン・ソダーバーグはこのところずっと落ち目だった。
無駄にスタイリッシュで、それが映画の面白さにつながっていない。
それが久々に「来た」なあ。
コーエン兄弟が「ノー・カントリー」で復活したときのような胸をすく感じがあった。


編集のうまさが際立っていた。
「ああ、これだよ、これ!」と思う。
なんだろう、普通の映画だったら長々と見せ付けて「情感」を誘うところ、
ばっさり切って次に行ってしまう。
一見「味」が無いようでいて、
実はこの方が全体で見たときにじわっと来るものがあるんですよね。
結局、人って映像のつながりをそのまま覚えてるのなんて普通無理で、
断片的なイメージだったり切り取った写真のような形で記憶に留めているもんで。
そうすると、スパスパ切ったカットの方がその素晴らしさが印象に残りやすい。
余計なものが削ぎ落とされていて、映像・映画の出来そのもので判断できるようになる。


蘇った。「トラフィック」以来だ。
これ、これまでのソダーバーグ作品の集大成だね。


58年〜60年にかけてがリアルなカラー映像で、
途中に挟まる、64年の国連本部での演説とテレビ番組用のインタビューとホテルの日々が
モノクロでざらついているっていう。この逆転した撮り方が面白かった。
64年、キューバ革命が成功して、その後ソ連に急接近して行って居場所がなくなっていった
チェ・ゲバラにとって、ニューヨークの日々は単なる回想・エピソードに過ぎなかったのか。
ゲリラ兵を指揮していた頃の生々しい記憶が全て。


2部作の後編、こりゃもう絶対見に行かなきゃ。
世界革命を夢見て、勝ち目の無いボリビアの反政府ゲリラに身を投じるチェ・ゲバラ
無残な死を迎える。必見だ。


カミロ・シエンフエゴス役のサンティアゴカブレラがよかった。
ベネチオ・デル・トロは最初、
「いやー何見てもベネチオ・デル・トロだなあ」と思っていたのが、
いつのまにか気にならなくなってきてチェ・ゲバラとしか思えなくなっていた。
この世の中にベネチオ・デル・トロという役者が存在するということを忘れてしまうぐらいの。
それぐらい、成り切っていた。