「隠された記憶」「人情紙風船」

12日の日曜日に見た、二本。

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「隠された記憶」


ミヒャエル・ハネケ監督の2005年の作品。現代は「Cache」
カンヌで監督賞。この年は、これとダルデンヌ兄弟の「ある子供」
ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」でパルムドールを争ったという記憶がある。
うーん。でもそんなにいい作品だろうか。
ミヒャエル・ハネケ特有の現代人の静かな悪意と不安は相変わらず。うまいとさえ思う。
でも、手癖なんだよな。目新しい発見はなし。過去の作品のアップデートにしか見えない。


前作「タイム・オブ・ザ・ウルフ」(話題になった「ピアニスト」の次)の方が
よっぽどゾッとした気持ちになった。
その次の、現時点での最新作「ファニーゲーム U.S.A」も評価は芳しくないみたいで。
ハネケのピークは、「ファニーゲーム」「コード:アンノウン」「ピアニスト」だったのでは。

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「人情紙風船」は歌舞伎を原作にした時代劇。
戦前の天才、山中貞雄の遺作。
徴兵されて28歳の若さで死んでしまうんですね。
いや、これ、よかった。
フィルム・アート社の1986年の「映画暦」で出会ったのが最初。3月25日。
ラスト近くの髪結新三が橋の上で切られようとする場面の写真に、冒頭の題詞、
「まァそうかい。折角お天気がいいのに……何だってこんないいお天気に首をつったんだろうね」
が引用される。
気になっていたのに、「映画暦」で見つけてから20年以上。
これこそ、ようやく、見た。


僕が学生時代には幻の作品だったんじゃないかな。1度ビデオ化されただけ。
映画サークルの先輩がダビングしたのを持っていたんだけど、借り損なった。
年明けに神保町の本屋のワゴンセールで廉価版を見かける。1000円だったか。
「あ、なんだ普通に買えるんだ」と思ってそのときは「じゃあいつでもいいや」と素通り。
その後見たくなって探しても見つからず。大失敗。
HMVのサイトで検索したら4,500円の正規盤が売られていて、まあそれでもいいかとオーダー。


江戸の貧乏長屋を舞台に、
隣通しの博打に身をやつす元髪結いの男と、ツテを当たるもケンモホロロの浪人が
ひょんなことから羽振りのいい商人の娘を誘拐することになり・・・
こう書くと喜劇みたいだけど、実際はどこにも救いがない悲しい話。
でも重たくなくて、さらっと軽い。
誰も彼もが吹けば飛ぶような安い命なんだなあ、と思う。
それが最後、溝を流れる紙風船に託されていて。
とにかく、切ない。


これは素晴らしい作品だった。よくできている。
1937年。もう70年以上も前の映画なのに見てて引き込まれる。
ラストに切ない気持ちになる。
長屋の大家さんだとか、商店の番頭だとか、浪人の妻だとか。
いろんな分かりやすい立場のキャラクターが登場して、
それぞれの思惑で物語が転がっていく。この脚本がいい。
そしてそれを役者に演じさせて、1つの作品に仕上げる。なんともそつがない。
それでいて、ときどき、ハッとする、監督としての主張を込めたショットがある。


確かに、天才じゃないか。
こういう才能を無駄に奪ったというだけでも、戦争って・・・
と思わずにはいられない。
生きていたら、日本映画はどう変わっていたか、というより、どう潤っていたか。