先日、誘われて、とあるバンドのライブを見た。
小さなライブハウスで、熱心な女性のファンが多かった。
跳んだり、腕を振り上げたり、
曲ごとにフリが決まっているようで皆、約束事をよく知っていた。
個人的には、全然興味を持てないバンドだった。
ドラムとベースがサポートメンバーだからなのか、演奏が噛み合っていない。
一言で言うとグルーヴがない。
なので様々な曲調の歌があって、それが全部ばらけて聞こえて、結局何がしたいの?と。
このバンド独自の音になっていない。
BOOWYとGLAYの間で迷ってる、世の中にあまたあるインディーバンドの1つに過ぎなかった。
招待券だったのでセットリストをもらっていて、全部で15曲。
今5曲目だから、あーあと10曲ある、それにアンコールも2回か。辛いなあ・・・
そんな感じで見てた。
アンコールに入る前に、ギターの人が長いMCに入った。
地方から上京してきて、最初はメンバーが1つ屋根の下に住んでいた。
これまで10年やってきて、3年前に1度解散の危機があって、
そのときにそれまでの音源をあちこちのレコード会社やプロダクションに送って、
ようやく1社、今の事務所に拾ってもらえた。
それからずっとライブを続けてきたんだけど、今、続けていくべきかどうか悩んでいる。
早い話、解散しようかと。
故郷のホールで8月にライブをやることになっている。
なのに、まだ6分の1しかチケットが売れていない。
このホールを満員にすることができたら、このバンドは続けていくべきなんじゃないか。
そのためにはとにかくチケットを売らなくちゃいけなくて、
僕らは故郷に何度も足を運んで、ストリートライブでもいいから演奏をして、
多くの人に知ってもらいたいと思っている。
そして、最後の最後頼れるのはこの会場に来ているみんなだけ。
みんなで家族や友人を誘ってまたライブを見に来て、人の輪を広げて欲しい。
そうして、8月のライブを迎えたい。
そんなような話だった。
客席にはすすり泣いている女の子もいて、メンバーもまた泣きそうになっていた。
思わぬ展開に、僕は驚いた。
その後演奏した曲は、なかなかよかった。
相変わらず演奏は噛み合っていない。
でも、自分たちはいい曲を書いたし、いい演奏をしている、それをみなに聞いて欲しい、
そういう思いが拙いながらも伝わってきた。
バンドのポテンシャルを超える、稀有な瞬間があった。
なんだ、やればできるじゃん。
最初からこのテンションでやれたら、よかったのに。
見終わって僕は、ああ、このバンドのドキュメンタリー映画を作ったら面白そうだなあ、と思った。
この日の感動的なMCとその後の曲から始まって、8月のホールに向かって物語りは進んでいく。
メンバーやファンの熱い思いをインタビュー。
故郷で行われる路上ライブ。メンバーの住んでいる部屋。リハーサル風景。
意見の対立から喧嘩に発展する夜もあれば、仲直りの朝もあるだろう。
そして、ライブ当日、ホールはどれだけ埋まっているか。
そこで、バンドはどんな演奏ができるか。
結果、ホールは全然埋まりませんでした、ってことになると思う。
現実は厳しい。
肌の張り具合を見る限りは、メンバーは僕と同じぐらいかそれよりも上の世代。
上京して10年やり続けました、というバンドがこの東京にどれだけいることか。
彼らのうちのいくつかは、10年を経て、諦める。趣味で続けるか、サポートメンバーとなるか。
小説家になりますと言い続けていた僕は、身につまされる思いがした。
(そして今日もまた、東京には夢を見て地方から出てくる若いミュージシャンの姿が・・・)
ライブを見て、その後、飲みながら今日のライブに誘ってくれた音楽業界関係者の話を聞く。
その故郷のホールってのは600人。これを埋められたら次のプロモーション展開を考えやすい。
そこのところのプレッシャーがかかってるんだろうなと。
僕は思う。
続けたかったら、続ければいいじゃないか。
ホールが埋まる埋まらないに関係なく。
今の事務所との契約が切れても。
ファンがいてくれて、そのファンのために演奏することに意味があるのなら。
あるいは、自分たちはいい曲を書いていて、いい演奏をしているという自信があって、
それを誰かに聞いて欲しいのなら。
この年になって続けていくのはあれこれいろんな面でしんどいのは分かる。
ビジネスはビジネスだし。
でも、そこを乗り越えて、地道に続けていかなければ何も始まらないんじゃないか?
今が一番試されている時期であるのに、あっさり放棄しすぎのように思う。
続けた先には、どんな形であれ、いつの日かゴールはあるはずなのだから。