ダイアログ・イン・ザ・ダーク(その1)

昨日の夕方、前から気になっていた
ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というイベントに行ってきた。
場所は外苑前のMTVジャパンのスタジオ。
巨大なコンクリートブロックが地面に埋まっているような、
おしゃれだけど不思議な建物だった。


エントランス。観葉植物の周りにソファー。
心地よい音楽が流れている。ゆったりとしたラウンジのよう。
受付を終えると、財布に携帯、あらゆる私物をコインロッカーに預ける。
スタッフたちはダイアログ・イン・ザ・ダークの黒いTシャツを着ていて、
それらが記念品・お土産として売られている。
その一角に大小様々なサイズの白杖が並んだ箱が置かれている。
壁に掛けられたパネルには発案者である
ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの日本へのメッセージが書かれていた。
日本という場所が気に入って、毎年訪れている、というものだった。


時間が来るまでの間、ソファーに座って
ダイアログ・イン・ザ・ダークのパンフレットを読む。
そのまま引用します。
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 目以外のなにかで、ものをみようとしたことがありますか?


 暗闇の中の対話。


 鳥のさえずり、遠くのせせらぎ、足元の葉と葉のこすれる枯れた音と、
 その葉を踏みつぶす感触。
 土の匂い、森の体温。水の質感。
 仲間の声、乾杯のグラスの音、白杖の先の触感。


 ダイアログ・イン・ザ・ダークは、まっくらやみのソーシャルエンターテイメントです。


 参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、何人かとグループを組んで入り、
 暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障がい者)のサポートのもと、
 中を探検し、様々なシーンを体験していきます。
 その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさを思い出し、
 そしてコミュニケーションの大切さ、あたたかさを再確認することになります。


 世界全体で600万人以上が体験したこのイベントは、1989年にドイツで生まれました。
 1999年以降は日本でも毎年開催され、約3万6千人が体験しています。
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僕が知ったのは2年前か3年前だろうか。
WEB上のニュースで知った。
完全な暗闇の中で行動するというのが面白そうだな、
日常生活では決して体験できないことが待ち受けてそうだな、と思った。
だけどその時には「ま、機会があったらかなあ」ってそれっきり。
チケットの入手が大変そうだったし。
今回、東京で長期開催ってことになって、じゃあ行ってみるかと。


時間が来て、18時の回が始まる。
(昼から、20分おきに開催される)
視覚障がい者の方のアテンドのもと、
1回につき最大8人パーティーとなって暗闇の中を体験するんだけど、今回は6人。
いきなり真っ暗の空間に入っていくのではなく、まずは薄暗い部屋で目を馴らす。
ここで白杖の使い方を教わる。
杖のてっぺんから握りこぶし2つ分下がったところを鉛筆を持つようにして握る。
1歩半先の地面を探るように、左右に先端を揺らす。
左手(利き手じゃない方)は顔の前に持ってきて、
その先に触れるものがないかというアンテナとなる。
このとき、指を水平にしていると何かにぶつかって突き指してしまうので、
必ず手の平を外に向けるのではなく、手の甲を外に向けるようにする。


さらにもう一段階暗い部屋へ案内される。
アテンドの方が紹介されて、僕らもパーティーの中で自己紹介をする。
暗闇の中で目の前にいる誰かとやりとりすることになり、
これから先は頻繁に名前を呼び合うことになると。
ニックネームか名前を共有する。
しゃがむときや立ち上がるときはぶつかることのないように
オカムラ、しゃがみます」「オカムラ、立ち上がります」と言わなくてはならない。
(こういうのえてして、女性は守るけど、男性は恥ずかしがって言わない)


6人の中の1組のカップルは昨日入籍したとのこと。
そういう記念でのダイアログ・イン・ザ・ダーク
2人のこれから先の人生を進めていく上での、象徴的なイベントになりそう
(もう1組もカップルで、前の回を終えて出てきた人たちもカップルばかり。
 これって気の合う仲間たちと体験を共有するものとして参加するのかと思いきや、
 映画や美術館に物足りなくなった、恋人たちの新しいデートコースなのだろうか?)


この部屋で照明を完全に落として、完全な暗闇の中へ。
何も見えない。どこに誰がいるのかも分からない。
ただ、どこかに誰かがいるのは、気配で分かる。
声とか体温とか空気の震えのようなもの。


部屋の端に次の空間との境目となるカーテンがあって、
くぐると、そこから90分の冒険が始まる。


(続く)