雨音

前にも書いたことがあると思うが、
「好きな音は何ですか?」と聞かれたら、屋根に雨が当たる音、と答える。
夜眠っているとき、朝起きたとき、雨が降っているとその音にじっと聞き入る。
休みの日の朝だと、気持ちよくてそのまま二度寝する。心がとても落ち着く。


雨にもいろんな雨があって、屋根に当たる音にも様々な表情がある。
土砂降りの朝の、情け容赦ない音。
シトシトと降る夜の、幽玄漂う音。
語りかけるようでもあり、拒絶するようでもあり。


僕が今のところに住み続けているのは、
1つには雨の音が聞けるからというのがあると思う。
ロフトの上が屋根になっている。
すぐ目の前に天井。
音が、直接聞ける。肌に、心に、ダイレクトに伝わってくる。


それはもちろん、違う家になると違う音になる。
たまに帰省した時に夜、雨が降っていると、
その音を長い時間をかけて聞く。いとおしむ。
それは僕が高校までの10何年の間、雨の降る夜に聞いた音なのだ。
郷愁、サウダージと結びつく音。


旅先で聞く音もいい。
だけど僕の場合、国内であちこち行っても安いビジネスホテルの一室なので
やはりそういう部屋の中で聞く雨の音はとても弱々しい。
表情と呼べるものは何もなく、雨は雨。


石垣島屋久島に行って平屋の民宿に泊まって、
そこに台風が直撃したときの音。
これにはとても興奮させられるのでは、と思う。
自分の奥深く眠っている、野生の感覚が呼び覚まされるような。
あるいは雨季の時期に東南アジアに行って、安宿に泊まるとか。
自分の中の「雨」観が変わるかもしれない。


ノルウェーの小さい村を訪れたときの吹雪の音を僕は思い出す。
吹雪は、屋根との距離は関係がない。
窓がそこにあればいい。


眠りの浅い僕は、真夜中に雨が降り出すと目が覚めてしまう。
そして夢うつつの中で取りとめのないことを考える。


日曜の朝、目覚めると雨が降っていたので、
僕はそのまま昼まで眠り続けた。
雨が降ったりやんだりしている。
ただそれだけのことで僕は幸福な気分になる。