AT賞を終えて

破のAT賞:物語編集術の結果発表が先日あった。


・・・三席。入賞はしたけど、一番下。


小説家志望の端くれとして
ここで大賞を取ることを目的として取り組んできたため、愕然とした。
なぜこんなに低い?奈落の底に突き落とされた。
ここで大賞、最低でも一席が獲得できれば、ここから先も僕は小説を書き続けることができるだろう。
僕は自信を取り戻せるだろう。
根拠はない。勝手な思い込みに過ぎない。
でも他に今、僕を後押ししてくれるものはないのだから、ここにすがりつくしかなかった。
僕は追い詰められていた。


たった70人の中から選ばれる。
ほとんどの人は今回初めて、物語というものを書く。
なぜこの僕がその中で負けるのか?


自分では手応えを感じていた。
満足できる水準にまで達した。やりがいがあった。
しかしこれは自己満足だったのか?
結局、そういうことなのだろう。


講評としては、テクニカルなところは評価できるが、
今回の目的である物語の翻案としては弱いと。
まあ、そうなんだろうな。そこのところは恨むつもりはない。
自分では翻案をしたつもりでいて、できていなかった。小手先だけ。
そこには、思い上がりとうぬぼれがあった。

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僕がなぜ小説家になれないのか、なれなかったのか、少し分かったような気がした。
やはり、どこかズレているのだろう。


与えられた一定の条件・制約の元でどこまで面白いものが書けるか?
(今回はそれが、物語の原型を読み取って、翻案するというものだった)
それができないようでは、小説家なんてなれないのだと思う。
自分の書きたいことだけを書いているようでは、どこからも相手にされない。


その気になれば、地道にトレーニングを続けていけば、文章力はいくらでも身につく。
しかし、もっと大事なのは、世の中に求められているものを察知してきちんと提供できる能力なのだ。
意識的であれ、無意識的であれ、こういうのが読みたいと思っている人に、それが届けられる能力。
書くではなく、その先にある、届けるということ。
思いを、伝えるということ。
それができるか、どうか。
僕はこの年にしてようやく、「物語を書く」ということの本質、その一端に触れたと思う。
・・・あーあ。遅すぎるよ。


というか、今回の僕の作品は、
応募作品の中での質は高かったんだろうけど、そもそもつまらなかったのだ。
それだけのこと。
ストーリーから何から、人を惹きつけるものがない。
(これ翻案じゃないけど面白いね、と言わせることだってできたはず)


玄人な分だけ、手垢のついた文章を紡いでいく自分。
片や、物語という形を借りて初めて自分という存在がこの世界と対峙する、
瑞々しい瞬間の発見、その清々しさの魅力・魔力。
そこにはやっぱ特別な何かがあって、
今回選ばれた人にはそれがあったんだろう。
今の僕は、そこに立ち向かうことができない。怯んでしまう。


そこが今回何よりの、負けということになる。
「物語」と本気で向き合っていなかった。

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僕の中にある足りないもの、至らないもの。
僕とこの世界の間にある絶望的なまでに深い溝。
これはこのまま編集学校にいて、「遊」物語のコースや「離」応用コースに進んで、
その後師範代を経験してみたところで、決して埋まることはないだろう。
だとしたらそれは今の僕に必要なものだろうか?


20守で卒門第一号となり、20破でも突破第一号となった。
夢中になって駆け抜けた。
その中で多くの物事を学んだ。
しかし今、夢から醒めて、何もかもが色褪せてしまった。
僕を突き動かしていた熱狂や幻想がスーッと消え去った。


ここから先、編集学校を続けるかどうか分からない。
とはいえここでやめたら、後はウダウダと何もせず腐っていくだけ。
それぐらいなら続けた方がいい。
当初の予定通り物語のコースに進んだら、何かが得られるかもしれない。


だけど、これまでのように「楽しいなー」「面白いなー」っていうだけでは
編集学校と向き合うことはできない。
それなりの覚悟が必要となる。

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それでもまだ小説家になりたいのなら、
今回のことをバネにして少しでも進んでいかなければならない。
乗り越えていかなければならない。


「これは翻案じゃない、だから選外」とすることだってできた。
なのに三席の位置を与えられた。
そこには何らかのメッセージが込められているのだ、そう思うことにする。
そこから、始めようと思う。