Weekender

金曜の夜。
会社から帰ってきてすることがなく、テレビを眺めながら缶ビールを飲んでいた。
携帯が鳴る。Nからメールが来て、明日、土曜日、
メンツが足りなくなったから合コンに来てくれないかと。
事務的に、時間と店と向こうの人数。
特に予定はなく、「いいよ」と返信する。
すぐにも「サンキュー」と返ってくる。
2本目のビールを飲む。テレビを眺める。


昼まで寝てる。近くの中華料理屋で麻婆豆腐の定食を食べる。
夕方になって、着替える。
穴の開いた黒のジーパンと地味な柄のアロハシャツ。それにサンダル。
手ぶら。携帯と財布をジーパンのポケットに入れる。
地下鉄に乗って、眠る。乗り換えの駅で下りる。
次の地下鉄に乗って、取り留めのないことを考える。
地下街を歩いて、大きな本屋へ。仕事で必要な本を探す。見つからない。


店に入ると他に誰もいない。僕だけ。
メニューを眺めていると、Nが来る。「早いな、相変わらず」
「ああ」とだけ答える。メニューに視線を戻す。
飽きてきて、向こうがどんな人たちか聞く。
Nが前の合コンで出会った子だという。派遣の事務。友達も皆、たぶんそう。
最近、合コンで出会う女の子のことごとくが派遣の事務で、
なんとなく、世の中大変だなー、と思う。
男の方の残り2人が来る。初めて会う。ここでは仮にAとBとしておく。
「あ、どうも」と挨拶をして、「どちらにお勤めですか?」なんて会話を交わす。
Nの携帯が鳴って、「女の子たち、ちょっと遅れるみたい」
僕がNとどういう関係で、みたいなことを説明する。
店員が来て、おしぼりを渡される。
AもBも、僕みたいな普通の人のように思えた。


女の子4人が到着する。駅で待ち合わせたのだろう。
「迷った?」「ぐるなびの地図だと分かりにくいよね」そんなことを言う。
男たちは4人とも生ビールで、女の子は2人が軽めのカクテルで2人がノンアルコール。
乾杯して、自己紹介。その後自然と2つの集団に分かれる。
僕とBと女の子2人。当たり障りのない、内容。海外旅行で行ったことがある場所とか。
僕がドバイに行ったことがあると言うと、
女の子の1人が「あ、私、ゼッタイ行ってみたいんですよー」と。
そこから、その子と話すことになる。ドバイのあれこれ。
でも、特に興味が持てない。波形は合うけど、波長は合わない。そんな印象を受ける。
いつのまにかまた4人の輪に戻って、席替えっつってその子は別な子に変わる。
この子が幹事のようで、陽気によく喋る。
仕事の話になる。目の前の子は2人とも以前、同じ会社に派遣で行ってたようで、
そのときのことを話す。僕とBは適当に相槌を打つ。
名刺を交換しようということになって、NとAとBが名刺入れを出す。
女の子も何人か受け取って、差し出す。
持ってこなかった僕は「あー、ごめん」と。


1次会の店が終わって、2次会に行くことになる。
女の子たちは誰も帰らない。
飲むのとボーリングとカラオケとどれがいい?ってNが聞くと、
幹事の子が手を挙げてボーリング!!と言う。どう?と残りの子に聞く。
3人とも顔を見合わせて、いいよー・・・?と。
ボーリング場へ。サンダルだった僕は仕方なく靴下を買う。高かった。
2組に分かれる。幹事の子とドバイの子と一緒になる。
久々のボーリングはボロボロだった。100を切る。いいとこない。
照れ笑いを繰り返す。それでいて女の子がストライクを取ると、ハイタッチ。
アルコールを置いてなくて、コーラを飲む。
1ゲーム終わって対抗戦にしようぜってなって、
負けた方が買ったほうにセブンティーンアイスを奢ることになる。
盛り上がる。奇跡的に僕もストライクとスペアを連発する。
分かりかけた気になってくると、ガター。
幹事の子がやたらうまくて、そのせいもあって僕らが勝つ。
その後、チームをシャッフルしてもう1ゲーム。


3ゲーム終わって、じゃあまた、バイバイとなる。
楽しかったよ。また会おうね。
駅まで歩いていって、そこで解散。
地下鉄に乗る人、JRに乗る人、私鉄に乗る人。バラバラに分かれる。
地下鉄に乗るのは僕ともう1人の女の子だけだった。
その子と話すのはこの日初めてだった。
1軒目の店でも、ボーリングでも、ことごとく別な方にいて。
キレイではないけど、ブサイクでもない。
まだどことなく酔いの残っていた僕は
「もう1軒飲まない?」と言う。なぜか口をついて出る。
「…じゃあ1軒だけ」とその子は言う。そしてぎこちなく笑う。


駅前の通りを歩いて、看板がかっこよかったので「じゃあ、あの店」と
階段を上がって2階のバーに入る。
カウンターだけの小さな店。2席だけ空いていた。そこに腰掛ける。
僕はラムコークを頼んで、その子はピーチフィズ。
乾杯、とグラスをぶつけ合う。
さて、何を話したものか。緊張してしまう。
幹事の子とどういう関係なのかを聞く。
そこから先、とりとめのない話をする。
転がってはどこかにぶつかって、止まって、また、転がってみる。
僕は僕のことを話し、彼女は彼女のことを話した。
僕は1人で、何杯も飲み続けた。酔っ払いだした。
僕はその子のことを気に入りかけていた。
だけど彼女は僕のアドレスを聞こうとしなかったし、
それゆえに僕も聞こうとしなかった。
彼女にとって、これと言って特に楽しい時間ではなかったのだろう。


どれだけ飲んで、どれだけ話したのか。
長かったようで、意外と短い間だったのかもしれない。
そろそろ帰らなきゃ、と彼女は言う。立ち上がる。
支払いになって、僕は「いいよ、俺が出すから」と1人で払う。
「いいんですか?」「いいからいいから、ありがとう」


階段を下りて店の外に出る。駅の方に向かっていく。
その子の歩調に合わせてゆっくり歩く。
どうせうまくいかないだろうな、と思う。
もう1回ぐらいは会えるかもしれない。でも、2回目はないだろう。
なんだか気まずい気持ちになる。ここで何を言うべきか?
僕は立ち止まって、「もう1軒飲んでいくから」と言う。
「じゃあね」反対方向に歩き去る。
その子をそこに置いていく。


意味もなく街を2周ほど歩いて、地下鉄に乗って帰る。
その子にばったり出会わないことを願いながら。
乗り換えて、駅で下りて、アパートまで歩いていく。
シャワーを浴びて、さっさと眠ってしまう。


昼まで寝てる。
近くの中華料理屋で、またしても麻婆豆腐の定食を食べる。
することがなくて、たまっていた新聞を読む。
日曜の夜。缶ビールを飲む。テレビを眺める。3本目。4本目。
明日は月曜。早々と、眠りにつく。
眠ってしまおうとする。