スペイン一人旅 その22(7/28:地球の裏側でクレヨンしんちゃんに出会う)

okmrtyhk2009-08-21


次に向かうはカタルーニャ美術館
モンジュイックの公園はとても広く、かつ、道が入り組んでいる。とても分かりにくい。
あちこち標識は立っているものの、矢印で大体の方角を指し示しているだけ。迷いやすい。
こっちなんだろうなあ、と思いながら恐る恐る歩いていく。


坂を下ったところに民族博物館ってのがあって、入ってみた。3ユーロだったか。
受付に女性がいて、暇そうにしていた。
最初のうち、観客は僕しかいなかった。
入ってすぐがカタルーニャ地方。オールとか鋤とか木靴とか人形とか。
薄暗い館内でたった一人ガラスケースの中のこういうのを見てるってのはなんとも怖いもんです。
古びたバンドネオンを見ながら、ふーむ、と腕組みなんかしてるうちに、サラマンカ地方へ。
アレッと思ったのはその次がいきなり、日本。しかも、なぜか漫画。
漫画的な浮世絵もありつつも、
ドラゴンボールが表紙の少年ジャンプと、ベルばらが表紙の週刊マーガレット
もっと時代が前の、鉄腕アトムが表紙の少年マガジン
恐らく日本の風物を伝えたくて
結婚式の情景を描いた漫画のスペイン語訳が大きく引き伸ばされて貼られているんだけど、
それがなぜか石川啄木の伝記。以後、あちこちに登場する。
日本的情緒大集合的なガラスケースの中には、お稲荷さんの狐に絵馬にダルマに雛飾りに、
なぜかクレヨンしんちゃんスペイン語訳。一応、みさえが雛飾りを作ったって話だったけど。


集められて展示されたものは的外れじゃないけど、
その国の人からすればなんとなく苦笑してしまうような。
というか漫画が飾られてるのって日本だけだったんだけど。
アメリカのコーナーがあって、スパイダーマンバットマンのコミックが貼られてたりはしない。
日本にとって漫画は今や民族学的に重要な手がかりなんだろうね。
この後、モロッコエチオピア、オーストラリア(アボリジニ)、
エクアドルパプアニューギニア・・・、と続く。
パプアニューギニアは例の泥人形とか木製の舟とかでまあ割りと普通なのに。
なぜ日本だけが?
地球の歩き方に紹介されていないのは、ここのところに理由が?)


カタルーニャ地方のカーニバルの衣装がすごかった。
青のズボン、黄色のシャツ、黄緑のベスト、ピンクのネクタイ。
頭部の被り物は象のように大きな右耳が赤で、左耳が水色。目の周りは青で縁取り。
緑色の鼻が長く垂れ下がっている。これって、つまり象なんだろうか?
写真に撮ってきたんだけど、これは是非とも見せたい。
お子様向けのテレビだろうが、お笑いだろうが、見たら絶対トラウマになる。
どんな傾奇者がこれを来てカーニバルに参加するというのだろう。
ちょっと覗いてみたい。


最後は20世紀前半のカタルーニャ地方の民衆の生活。
ラジオ、オーブン、馬の人形、ネッスルのチョコレート。
「ゲリラ時代の生活」という催し物に続いて、ガスマスクやポスター、当時のポスターなど。
カタルーニャ美術館ロバート・キャパの30年代−40年代の写真展が行われていたので、
 そこと連動しているのだろう)


カタルーニャ美術館は民族博物館の近くにあった。
建物がとても大きくて趣があって、宮殿なのだろうかと思ったんだけど、
地球の歩き方を見たら「1929年の万博の際に政府館として作られた」とあった。
現在は工事中で、外側は工事用のネットがかかっていた。


手荷物検査を経て、中に入る。8ユーロ。
これがまた、とてつもなく大きい。
このスペイン旅行で一番でかかった美術館だと思う。
本気で見るなら、1日は絶対必要。


□公式サイト
http://www.mnac.cat/index.jsp


1階はロマネスクとゴシック。特にロマネスクがすごい。
中世の中ほどまでだったか?11〜14世紀?
当時の聖堂に描かれていた壁画を、そのまま持ってきている。
それが平面じゃなくてアーチの内側に描かれているので、
その枠組みを崩さないように半円の小ドームを丸ごと切り出してっていうのが何十個と。
こりゃあ確かに膨大な広さが必要となるわ。
もう右を見ても左を見ても古びた、かすれかけた、プリミティブな色彩のキリストと使徒たち。
余りにも時代が古すぎて、いいも何もわからない。
ただただ、「なんか分からないけどすげー」とひれ伏すのみ。
この当時の人たちはどのようなことを考え日々生きていたのか、
自らの信仰する宗教(それは今よりもはるかに大きな価値と意味を持つ)に関して
絵を描くことの苦しさとか楽しさってのはいかばかりだっただろうか、
そんなことに思いを馳せてみる。


広大な1階の向かって右半分がゴシック。15世紀〜16世紀か。
これはある程度分かりやすい。プラド美術館に飾られている宗教画たちの全史というか。
やはり、右を見ても左を見てもキリスト、天使、マリア、嘆き悲しむ人たち。
感覚が麻痺して、自分が何を見ているのかよく分からなくなってくる。
奥に進むに連れて年代が進んで、ゴヤエル・グレコの絵も出てくる。
石棺だけを集めた部屋があって、興味深かった。
さらに奥には、ティッセン・ボルネミッサ美術館のコレクションを展示するコーナーがあった。
係員に促されて外に出たら、巨大な真っ白いアリーナ。観客席が取り囲んでいる。
何らかの祭典に使用されるのだろうか?


2階はバロックから近・現代となるけど、この辺りは特に面白いものはなく。
近・現代と言っても、スペインだけ。聞いたことない人ばかり。
XAVIER NOGUES という画家の、青を多用した、ユーモラスな絵が気になった。
ピカソだけを飾った小さな部屋があって、
キュビズム時代と思われる女性の絵だけが1枚、特別扱いされて手厚く展示されていた。
ダリも何枚かあった。
スペインに来てからダリをよく見かけるなあと思って、ここで初めて気がついた。
ダリもまた、カタルーニャ出身なのだ。
(でも、僕自身はダリ全然好きじゃない)


2階の片隅にひっそりと展示されている現代スペインの写真を見て、地下へ。
ロバート・キャパの戦争写真展が開催されていた。
1936年のスペイン内戦、1938年の中国、1944年のノルマンディ、1945年のライプチヒ陥落。
奇しくも、「崩れ落ちる兵士」を
マドリードのソフィア王妃芸術センターとここバルセロナカタルーニャ美術館で2回見たことになる。
なぜか今回の旅行はロバート・キャパに縁があった。
ロバート・キャパの写真はたった1つの真実がそこに宿っているようで、いつ見てもいい。
生と死が、希望と絶望が隣り合っていて、
この瞬間、このアングルしかありえないというものを常に切り取っている。
まあほんとは何百倍・何千倍もの写真を撮ってきた中で
代表作ばかりを並べられて見ているわけだからそんなふうにもなるんだろうけど。
キャパと同じ時代を戦場カメラマンとして生きた、ゲルダ・タローの写真も合わせて公開。
Wikipediaを見たら、ゲルダ・タローという名前は
 グレタ・ガルボ岡本太郎から取られていると知って驚いた)