サマソニ09 その6(8/7:Soulwax 〜 Aphex Twin)

そして遂に、Soulwax!!
裏バージョンの 2 Many DJ's と合わせて今回のサマソニで最も見てみたかったもの。
フェスで来なくても、次に来日するときがあったら絶対見ようと思っていた。


ベルギーの Stephen Dewaele と David Dewaele を中心とするグループ。
というかこの2人は 2 Many DJ's としての活動の方が世界的に知られてるんだろうな。
全然関係なさそうな2つの曲を片方はヴォーカルを、片方はオケを取り出して
1つの曲として重ね合わせてしまう、「マッシュアップ」という手法のオリジネイターとして。
(以下、5/14に書いたことをそのまま転用)
Soulwax の偉大なところって、
2 many DJ's でマッシュアップを「発明」して、自ら楽しみながら普及させたこともそうなんだけど、
そこから Soulwax という生身のロックバンドに戻ってきて、
さらにそれを、Nite Versions というダンスアクトへと進化させたところにあると思う。
マッシュアップありのリミックスした楽曲を生で演奏するっていう。


僕としては、Soulwax とは
今世界中で最も音楽的に野心的な「ロック」バンドであり、
最もユニークなコンセプトメイカーであるように思う。


DJ TASAKA が終わって、首尾よく最前列をキープ。
待つこと30分。機材がステージに運ばれてくる。
向かって左側がドラムセットで、右側に David の扱うアナログ・シンセ、
真ん中に Stephen のマイク。もちろん、セクシーなシンガー御用達のガイコツマイクですよ。
つまり、昨年出たアルバム「Part of the Weekend Never Dies」の DVD で見たセットのまま。
背後に掛けられた大きな幕には「Part ...」と書かれている。
僕の後ろに立っていた学生2人組が
僕もそうだったけど、全く同じセットだということに興奮していた。
「これまで何度も DVD で見てきたアレが遂に見れる!」って感じで。


暗くなって4人がステージに現れる。
4人はもちろん白の伊達男スーツを着ていて、
David は蝶ネクタイをきちんと締めて、Stephen はだらんと外している。
演奏が始まる。曲もまた、DVDとだいたい一緒、・・・だと思う。
興奮して見ていたからというか、
音に激しく反応して飛び跳ねて首を振り、体を前後左右に動かしていたからよく分からず。
少なくとも、コンセプトは同じ。Soulwax というよりは、これは Nite Versions なのだと思う。
日本では知名度の観点から、Soulwax と呼んだ方が分かりやすいってことなんだろう。
とはいえ曲の構成はさすがにたぶん違うんだろうな。
とにかく、リミックスされた曲の生演奏がノンストップで繰り広げられ、一瞬で終わった。
いやあ、熱かったねえ。周りは熱狂の渦だったよ。
これがビートであり、アタックなのだ。
DJ TASAKA に聞かせたかった。
片や DJ で片や生でドラムを叩いているというのは余り関係がない。
何と言うか、享楽的かつストイックという矛盾する姿勢を保ちつつ、突き進みかつ音に身を委ねる。
全てのことが1度に行われていて、それがビートに結実する。


冷静になって考えると、あの音の核となっているのは連打されるバスドラと
アナログ・シンセのギュオギュオキュイィィーーーーンという変調の軋みか。
いや、分析してもつまらない。
やはり、Soulwax / Nite Versions は素晴らしいバンドだった。
機会があったら、是非見るべき。


次は、Ghostland Observatory というのを見て最前列をキープしつつ、
2 Many DJ's に備えるのが当初の予定だった。
しかし、意外と早く終わって隣の SONIC STAGE での Aphex Twin が始まっている気配はなく、
もしかして頭から見れるかもと移動することに決める。
僕と同じことを考えてる人が多いみたいで DANCE STAGE から出るのにえらく時間がかかった。
入ってみると、まだ始まってなくて、ホッとする。
できる限り前に近付いて見るようにする。


ステージ上には、かなり高い位置に演壇のような、宇宙船のコクピットのような DJ ブースが設置され、
灰色の Mac Book が置かれているのが見えた。
その背後に3つの大きなスクリーンと、DJブースのフロント部分に小さなモニター。
横にはモノリスのように突き出した、真っ黒な真四角の細長いスピーカー。
始まる。演説が読み上げられ、その内容がスクリーンに流れる。
機械が人類を支配することについて、人類に向かっての声明文のような内容。
いつのまにか、Aphex Twin こと、Richard D James が DJ ブースに座っていた。
光の加減だったのか、遠くから見る僕にはなぜかそれがのっぺらぼうに見えた。


音が流れ出す、押し寄せる。
ねじれてグニョグニョしていて、形がない。
リズムは正確に一定のパターンを繰り返しているはずなのに
どこを取っても曖昧で常に揺れ動いて変化しているように聞こえる。
1つ1つの音がそれぞれポリリズムを孕んでいるかのよう。
映し出される映像もまた古典絵画をよじってグニョグニョさせたもので。
一言で言って映像も音もグロテスク。
それが悪趣味、生理的不快感の一歩手前で留まるから、
Aphex Twin の音は謎めいているのに気持ちよくて、中毒性を帯びるんだろうな。
ノイズ的要素が強まった瞬間、大きな歓声が上がる。
これは確かに、機械が人間の感覚を操作しているようであった。


あるところまで来て、音は単純で分かりやすいものとなる。
それと共に映像も変化する。
幾何学的な図形が回転しながら細分化して行き、螺旋模様を描く。


正直、僕は Aphex Twin の良い聞き手ではなくて、曲を全然覚えていない。
名盤とされる「Selected Ambient Works 85-92」だって
あれだけ熱心に廃盤となった国内盤を探した割には、ほとんど聴いてない。
なのであの曲をやった、断片的に取り上げた、というのは判別できないんですね。
全部即興で音の素材から「曲」を作ったのかもしれないし、
全部アリモノを繋げただけなのかもしれない。
でもまあどっちでも良かった。


後半、最後にもう一度グロテスク路線に戻ってくる。
Richard の顔が散々いじられまくる。
自分の顔でここまで遊べるというかグシャグシャにできる人って
どういう感覚の持ち主なのだろうと思う。
途中から、映像の一部分を極端に引き伸ばす手法が多用される。
つまり顔が映っていたら目や歯が画面の外まで突き出すという。
これがイギリスなのかアメリカなのか、例えば太っちょがスパイダーマンの全身衣装を着てるだとか
日常生活の変なスナップショットが次々に羅列されて、それがグチョグチョに引き伸ばされる。
それが終わったら熊のぬいぐるみの顔が Richard で、音に合わせて目が飛び出て。
最後は、屠殺場で豚が殺される場面だとか死体を解剖しているだとか外科手術だとかそういう映像のコラージュ。
気分を悪くした女性は多いだろうな。隣に立っていた人は顔を覆っていた。
これ、絶対映像を極端に乱しているけど排泄しているところだろうな、とか。
常人には理解できない、ユーモアのセンス。


そんなこんなありつつ、でも、見てよかったと思った。
すげーと唸った。頭では理解できないとしても、
我々が日々生きている次元を超越するぐらいすごいってのは嫌でも、皮膚感覚で伝わってきた。
なんだか、後になってジワジワ来る。
見た後よりも、次の日、さらにその次の日。
Soulwaxも素晴らしい体験だったけど、Aphex Twin はまた別の意味での貴重な体験だった。