「旅する写真」

金曜の夕方。面接を受けた会社が恵比寿ガーデンプレイスにあって、早く着きすぎて時間を持て余す。
東京都写真美術館に行ってみたら「旅」という企画展の第三部「異邦へ」というのをやっていて、入ってみた。
サブタイトルが「日本の写真家たちが見つめた異国世界」とある。
http://www.syabi.com/details/collection3.html
(↑たぶん、12月に入って終了したらこのURLクリックすると別の企画展になっちゃうんだろうな)


なお、第一部は「東方へ 19世紀写真術の旅」
http://www.syabi.com/details/collection1.html


第二部は「異郷へ 写真家たちのセンチメンタル・ジャーニー
http://www.syabi.com/details/collection2.html


うーん知らなかった。どうせなら第一部も第二部も見たかった。


気を取り直して、第三部を鑑賞。
□第1章:異邦へ −絵画的風景の方へ− 安本江陽、福原信三
□第2章:異邦人としての眼差し 木村伊兵衛、渡辺義雄、桑原甲子雄名取洋之助、三木淳、林忠彦
□第3章:自己探求への途 奈良原一高、川田喜久治、植田正治森山大道小川隆之、深瀬昌久
□第4章:歴史の証言者としての旅 港千尋白川義員、並河万里、長野重一
なお、この日この時間帯は学芸員による解説付きだった。
ゆっくりしてられない僕は一人で見て回ってたけど。


日本人写真家に全然詳しくなかった僕としては知ってるのは木村伊兵衛森山大道ぐらい。とほほ。
第1章・第2章が1930年代〜1950年代で、第3章・第4章が1960年代以後って流れだったかな。
ニューヨークだったりパリだったり、ローマや満州だったりと
日本人が日本という国の外に出て行って、異国の地で撮影した写真たち。


第1章・第2章の写真って、ものすごく真面目。
街並みがあって、道を聞いたり笑いあったりするという何気ない写真を撮っているんだけど、どこか固い。
白のYシャツにネクタイをきちんと締めて、背筋を伸ばしながらきっちり三脚に固定して撮ってるかのよう。
背景があって、被写体があって、カメラがあって、撮影者がいる。
この図式を絶対外さない。それぞれ一定の距離感がある。教科書的。
アメリカやフランスの街角の人たちってのがあくまで「異国の人たち」であって、
まだまだ海外旅行が一般的じゃない時期の日本人からすると、どこかおっかなびっくり接しているというか。


それが、第3章・第4章で変わってくる。
撮る側のアーティスティックな個性、視線、フレームの切り取り方、被写体と向かい合う瞬間の選び方、
というものが前面に打ち出てくる。
写真としては、やはり、これらのほうが面白い。
記録から、アートへ。
奈良原一高という人の撮影したシリーズ「消滅した時間」「静止した時間」がいい。
あと、渚千尋による1989年のプラハ、革命のため集まったとんでもない数の群衆、その迫力。


給料日直後ということもあって、三部を通した写真集を買った。
タイトルは「旅する写真」
これがなかなかよかった。やはり、第一部や第二部も見ておくべきだった。


第一部は19世紀半ばの、西洋の写真家たちの写真がメイン。日本に限らず、異国の風景。
1860年代の日本を写したものは髷を結ったり思いっきり幕末ですよ。明治に入って桜に人力車。
日下部金兵衛って19世紀末の人が撮った写真には切腹の場面まであった。
これ、ほんとなんだろうな。白装束を着て、腹から真っ赤な血が出ている。
大事なこととして、この頃の写真はもちろん白黒で、撮った写真に対して絵描きが彩色している。
これがリアルさに欠けたなんともカラフルで不思議な色合いで、エキゾチック。
この時代にしかありえないような写真=絵。奇妙な風合いの情景に虚を突かれた。
写真の長い歴史の中で、一瞬だけそういう時代がある。


なお、かなりマニアックな豆知識として、
SPK「Auto Da Fe」のアルバム・ジャケットの元になった写真が収録されていた。
1907年、撮影者不肖、題不肖(首かせをつけられた三人の女性 上海)


第二部は20世紀後半。1960−70年代が中心。
日本人写真家たちが日本の中にエキゾチックな風景を見出していく。
失われゆく昭和の風景が妙に懐かしい。僕らの世代から上にはDNAに刷り込まれているのか。
見てると吸い込まれそうな気持ちになる。
なぜか青森が多い。
内藤正敏 「婆バクハツ!」(憑きもの落としの祈願絵馬、青森県小栗神社)
土田ヒロミ 「俗神」(青森・岩木山
北井一夫 「いつか見た風景」(青森県下北半島
この風景、見てほしいなあ。上記URLに一部写真あり。


アラーキーの「センチメンタルな旅」と森山大道の北海道のシリーズが天才的。
どちらも匂いたつような、それでいて正反対と言っていい情感に満ち溢れている。


思いがけず、素晴らしい写真集と出会った。
第二部の写真たち、どっかで見れたらなあ・・・


帰りにミュージアムショップで
リクルートが出している小冊子のシリーズ「タイムトンネル」のVol.26
十文字美信展を買う。
この人の写真は気になるね。