「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」

世の中、「クラウド」である。
ただし、IT業界にいる人(だけ)にとって。


今、この業界でこの話しだすと、むしろヤボ。
Web2.0」で痛い目に遭ってるだけあって、みな、慎重になった。
・・・で、互いに知ってるフリ。
SaaS とか PaaS とかとどう違うの?って口が避けても聞けない)


それもどーよ、という気がして、こっそり新書で読んでみた。
その名も「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」
今年の1月に出た、その筋では割と早かった本。


例えば、「Gmail
使ってる人多いですよね。
最近だと「Yahoo! Mail」(ベータ版)でもいい。
ああいうの。クラウドって。


昔々、というか感覚的にはついこの間まで、
PCは「ソフトウェア」をインストールしてなんぼだった。
それがいつのまにか、そうじゃなくなりましたよね?
そこにブラウザさえあれば
家のPCだろうと会社だろうとネットカフェだろうと
今届いたメールが、過去に保存したメールが、読める。
メールという「サービス」が「無料」で利用できる。
PCじゃなくてもいい。
それは携帯かもしれないし、テレビかもしれない。


わかってもらえたかなー。


データだろうとそれを使って動くソフトウェアだろうと、
全てがネットの向こう側にあるのだということ。
家のPCに全てを保存しておく必要がない。
ネットにさえ接続できたらどこでもそれが取り出せるわけです。


じゃあそもそもなぜ「クラウド」なんて呼ばれるのか?
今から3年前の2006年8月、
Google の CEO エリック・シュミット氏はかく語りき。
モヤッとしていたものがこのとき、概念化された。名前をつけられた。


「我々は、まさにいま新しいモデルに直面しています。
 ですが、それがどのくらい大きなチャンスをもたらすか、理解してません。
 (中略)
 PCかマックか、携帯電話かは無関係です。
”雲(クラウド)”のような、巨大なインターネットにアクセスすれば、
 その利益、恵みの雨を受けられる時代になっています」(p.156)


そういうこと。


ネットブックが昨年あれほど売れたのは
それでできることのほとんどがネットの向こう側から提供されるので
高性能、つまりそれなりの値段である必要がなかったからだし、
iPhone が最も画期的だったのは
タッチパネルや apple ならではのデザインではなくて、
ただ単に世界で最もおしゃれなネットブックだったのだ、ということ。


著者の西田宗千佳氏は
コンピュータ・インターネット周りの進化の歴史が
クラウドという必然へとつながっていく過程を描く。


ADSLFTTHのようなブロードバンドの回線によって、
 高速でデータのやり取りが行えるようになった。
 それが、Ajax(サーバー側で動かすJavaScriptみたいなもの)
 といった技術の発展を生む。
 PCにインストールしたソフトウェアと同等の機能が実現できるようになった。


・データセンターの普及によって、
 大きな会社も小さな会社も自前でサーバを立てずに
 業者からバーチャルなインフラ一式を借りられるようになった。
 それがインフラだけじゃなく、ソフトウェアにも進んでいく。


・安くなったハードディスクを無数につなげることで
 Google とか yahoo! とかデータを預かる側は
 無限と言っていいぐらいに
 エンドユーザーのデータを保存できるようになった。


などなど。
恥ずかしながら、これ読んでようやく、
僕の頭の中のアレコレがつながりました。
(そうか、Microsoft が2000年代前半に広めようとしていた
 「.net」って、クラウドを目指したのに、
 ブロードバンドとか世の中のインフラが追いついてないから失敗したんだ…)


クラウドがどうこうという以前にITというものの変遷が分かる。
入門書として、とても最適。
★5つでおすすめします。


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補足。
この本で挙げているクラウドの特徴はというと。
 (p.158 - 159)


1) サービス化
 『従来のように、作業をパソコン内や携帯電話内にある
  ローカルのアプリケーションで行うのではなく、
  インターネットなどの向こうにあるサーバーで処理を行い、
  利用者はその操作や処理結果の確認のために、
  パソコンや携帯電話を利用する』


2) ボーダーレス
 『サービス化したソフトを利用できる「窓口」となる、
  ウェブブラウザー』などがあれば、パソコンのメーカーやOS、
  はては「パソコンか携帯電話かテレビなのか」
  といったことも問わない』


3) 分散
 『データは、手元の機器の中だけにあるものではない。
  どこかのサーバー内にあってもいい。
  さらには、複数の機器にまたがって存在してもいい』


4) 集約
 『サーバーで多くの処理を行うということは、
  個々人の持つパソコンや携帯電話には、
  それほど能力が必要ではなくなる。(中略)
  「演算の速さ」よりもむしろ、省電力性や生産性の面が
  脚光を浴びることになりそうだ。
  他方、サーバーを構成する技術では、
  演算の速さやハードディスクの容量・信頼性などが、
  より必要とされるようになる。
  技術の面でも、「個人の持つ端末」と「処理するサーバー」では、
  別の要素が「集約」されることになるのではないだろうか』


クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの (朝日新書)

クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの (朝日新書)