『ペレ』『愛の風景』

カンヌでパルムドールを2回獲得している監督は僕が知っている限りこれまで、4組。
今村昌平楢山節考』『うなぎ』
エミール・クストリッツァ『パパは出張中!』『アンダーグラウンド
ダルデンヌ兄弟ロゼッタ』『ある子供』
ビレ・アウグスト『ペレ』『愛の風景』


この顔ぶれを見た中で、ビレ・アウグストだけよく知らない。デンマークの監督らしい。
この機会に見てみようと思った。
『ペレ』は中古の DVD をレコミンツで入手、『愛の風景』は DISCAS から借りる。

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『愛の風景』は1992年の作品。


スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン
自らの両親を描いた脚本をビレ・アウグストが演出している。

父は貧しい神学生、後に神父。母は上流階級の出。
幾多の擦れ違いの果てに2人は遂に結ばれる。
周りの人間は反対するが、それを押し切って結婚する。
寒村の教会に赴任する。貧しき人々に囲まれた厳しい生活。教会の運営もうまくいかない。
その重苦しさに自分や子供たちの人生はこれでいいのだろうか、と母は家を出る。
しばらくの間父は一人で暮らしていたが、母と子供を連れ戻そうと会いに行く。

一組の夫婦を巡る大河ドラマ、堂々全3時間。
重厚感たっぷりの正統派の演出。雄大かつ緻密な時間の流れ。
しかしこれ、さすがに疲れるね・・・
元々はテレビドラマということで、日本だとNHKの特番で年末に放送されるようなものか。


前半の結婚するまではどこにでもある普通の
(と言ったら変だけど)階級間の異なる男女のすれ違いであって特に興味を持てなかったけど、
後半、寒村に赴任してからの生活に話が移ってから俄然面白くなった。
深い雪に閉ざされ、夏は緑が美しい。
労働者を搾取する工場主との対立。それは村の中での孤立を意味するものだった。
父はスウェーデン王立病院専属の神父という名誉ある役職に推挙されるが、村のためにそれを断る。
上流階級出身の母にはその考えが理解できない。その生活はこれまで以上に耐えがたいものとなる。


なお、イングマール・ベルイマン自身は(長男だったならば)幼子、
ないしはお腹の中であって、特に話には絡んでこない。
自分の両親を脚本に描く、しかもこれほどのドラマにするという人、他に見たことがない。

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『ペレ』


1988年の作品。
19世紀末のデンマークの寒村が舞台。
豊かな暮らしを夢見てスウェーデンから移住してきた貧しい親子が
住み込みの働き先として見つけたのは、閉鎖的な農場だった。
農場主以外はみな貧しく、少年ペレは学校でスウェーデン人とバカにされる。
ペレは同じくスウェーデンで食い詰めて農場に来た
陽気だが農場主に反抗的なアコーディオン弾き、エリックと仲良くなる。
エリックはペレに2年後、雪が溶けたらアメリカへ渡る船に乗ろう、
それまでは金を貯めるんだ、と約束するのだが・・・


少年の成長物語。
海辺の、雪に閉ざされた寒村にて少年は
この世界とはどういうものなのか、生きるとはどういうことなのか、ほんの少しずつ知り始める。
帆があるだけのみすぼらしい船が深い霧の中を進んでいく。
中では貧しき人々が身を寄せ合っている。船着き場に到着して、鐘が鳴る。
このオープニングが何よりも素晴らしい。
これから先、どういう出来事が待ち受けているのか、
それがどういう質感をもって展開されるのか、全てを暗示する。


年老いた父を演じた名優マックス・フォン・シドー(『エクソシスト』のメリン神父など)
もさることながら、少年ペレの瑞々しくてひたむきな演技。


名作と呼んでよいと思う。