『アウトレイジ』

北野武監督の最新作。カンヌに出品されるも、無冠。
それも頷ける。面白いんだか面白くないんだか、日本人でもよく分からないと思う。
日曜午前の木場の109シネマはガラガラだった。ヒットしてないんだろうな。
http://office-kitano.co.jp/outrage/main.html


面白い・面白くないで言ったら、そりゃ面白い。
でも、『ソナチネ』までをリアルタイムに青春時代に見ていた僕としては
アウトレイジ』はかなりぬるかった。緊張感が薄くなった。


『Takeshi's』『監督・ばんざい!」もつまらなかったしなあ。
アキレスと亀』は「いい話」ではあったけど、いい映画ではなかった。
残念だ。北野武は終わったのか。


悪者ばかりの群像劇。
それを北野流にスタイリッシュに描いてそつがない。
そこのところはうまいんだけど、スピード感がないんだよね。
もったいつけてるというか。きびきびしてない。
かといって重厚かというとそうでもない。
初期の頃の省略と間合い。
それを活かすところ、離れるところが逆転していた。

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役者の演技はよかったね。
椎名桔平ってこんなにいい役者だったか。全ての場面、ホレボレしながら見ていた。
もう1人、杉本哲太。いろいろ出ている役者さんなのだが、正直これまで知らなかった。
この2人のヤクザがいたら日本もよくなるのになあ、なんて思った。
いや、ああいうふうに生きて、ああいうふうに死にたい。
人物像は全然違うけど、60年代の東映ヤクザ映画を見た後の気分ってこうだったんだろうな。

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つくづく、残念だ。
先日『Dolls』を借りてみたけど、これも映画としては今一つ、二つ。
それまでの作品を焼直して、その死生観をクローズアップしただけのような。
初期の諸作は異物だったからこそ、面白かった。
見る側がそこに自分を投影できた。
しかし今や押しも押されぬ世界的な大監督となって、
そのスタイルが主流となってしまうと憑き物が落ちた。
凝り固まって、余裕と隙間が生まれてしまった。


新境地は、もうないんだろうな。
最初の頃の「お笑いをやってたビートたけしが映画を撮った!?」
ってのが結局一番の衝撃。
見る側も撮る側もそれを早々と乗り越えたようでいて
いつまでたってもついて回ってる。
そこのところの距離感がその時々で見る側も撮る側もぶれているように思う。
たけし流のお笑いを取り込んだ作品を撮ってみて、笑えたり、笑えなかったり。
笑えない場面に「らしいな」と思ってみたり。


笑いと暴力を封印した映画に挑んでほしいな、と
一映画ファンとして僭越ながら希望する。