ルナ・レガーロ

今日は会社の年に1度の文化イベントで「ルナ・レガーロ」というのに行ってきた。
フジテレビが主催して、日本を代表する料理人の企画した
和洋中とデザートを食べながらロシアから来たサーカスを見るというもの。
場所は日比谷に設営された特設会場。
http://luna-regalo.jp/


4月からやってるみたいなんだけど
ずっと同じシェフの同じ料理というわけには行かず、
定期的に入れ替えているようだ。
今は第3期ということでこんなメニュー。書き写す。


・「つきぢ田村」オーナーシェフ田村隆による「節月花」
 カボチャ、海老、焼きホタテ、あわ麩、ナスの揚げ浸し、人参、蟹入りチーズ卵、
 コンニャク、焼きマス、枝豆団子、黒ゴマ白玉、なんこつ入り鶏のつくねの
 12種類の具材を、かつおぶしをきかせた出汁ゼリーで寄せました。
 まわりには4種のソース、春は赤い梅肉、夏は緑のブロッコリー
 秋が茶色のゴマ、冬は黒い赤味噌のソースを添えて、味にアクセントを出しました。


・「ホテル日航東京」調理部顧問河合隆良による
 「月と大地の贈りもの〜ラグー・ルナ・レガーロ
 河合隆良シェフ特製の鴨のソーセージと各種の野菜(トマト、ごぼう、葱、
 根セロリブロッコリー、プチオニオン、イエロービーツ、大根など)を
 トリュフをきかせた軽い煮込み(ラグー)にしました。
 その上にはフォアグラのソテーを乗せて、香り高い赤ワインソースを添えました。


・「四川飯店」グループ社長、オーナーシェフ料理の鉄人陳健一による
 「月亮的中華飯(ユェ リャン デ ゾン ファー ファン)」
 中華あんには、海老、イカ、つぶ貝、小柱、鶏肉、牛肉、筍、キクラゲ、シイタケ、
 人参、白菜、ベビーコーンと12種類の海鮮・肉・野菜などの具を入れ、
 濃厚な白湯(パイタン)スープで味付けしました。
 さらに、途中で味の変化をつけられるよう、
 アジアン辛味噌(豆板醤・コチジャン赤味噌)を添え、
 ご飯の上にはキュウリとザーサイのみじん切りを星のように飾りました。


・「Toshi Yoroizukaオーナーシェフ鎧塚俊彦による
 「ルナ・エ・ソーレ(月と太陽)」
 コアントロー(オレンジのリキュール)風味のカスタードの上には、
 オレンジのやわらかなジュレと果肉、
 さらに白ワインが入ったサヴァイヨンムースをのせ、
 その上には食感が楽しいカダイフをのせました。
 さらに一番上には鎧塚シェフのスペシャリテ、ピスタチオのアイスクリームを飾り、
 様々な味と食感のグラデーションを演出してあります。


さすがにおいしかった。どれも甲乙つけがたし。
どの皿も量は少なくて最初のうちは
「なんだよもったいつけて」と思ったりしたものの、
食後のコーヒーまで来たときには結構腹いっぱいになっていた。


各料理の間に、ロシアから来たサーカスの小グループが入れ替わり立ち代り、
エアリアル系のパフォーマンスを繰り広げる。
こちらはなんか物足りない。
昨年シルク・ドゥ・ソレイユを見ていたのでまるで2軍のよう。
しまりがなくて緊張感にかけるというのではなく、なんだか小粒。
後から考えてみるに、下手だとか練習不足っていうのではなく、
ステージが小さいからだ。
思いっきり身体を伸ばすだけのスペースがなく、周りはテーブル席。
それじゃあつまらなくもなるよね。
その分、日本人ダンサーも交えて創作ダンスで動きをカバーする。
単刀直入に本題のアクロバットだけやってくれればいいのに、と僕なんかは思う。
入場する前、裏口の辺りを歩いていたら、外の階段の上が控え室だったのか
ドアのところに彼らロシアの若者たちがたむろしていた。
楽しそうにしているのでもなく、退屈そうにしているのでもなく。
緊張しているわけでもなく、ダラダラしているわけでもなく。
なんとなくそこにいて、なんとなく時間を過ごしていた。
その姿が、僕には哀しく、痛々しく見えた。


何がダメだったかといえば演出というかハコビだと思う。
最初からして、「私こんな格好してますがフジテレビのアナウンサーでして」って
感じで司会が出てきて、スクリーンにはその名前が映し出される。
パフォーマンスが終わると客席に行って料理の感想を聞く。
7月に結婚したばかりで今日誕生日ですってカップルを紹介して
ハッピバースデートゥーユーと歌が流れて祝うことまでした。
最後にはオリジナルグッズの当たる抽選会。
そういうのに時間が割かれてて、なんだかなあと思う。
カップルの幸せを妬んでいるのではない。
なんだこの中途半端感は? ってとこに腹が立つ。
合間合間に他の星から来たかなんかのオーナー役で
ド派手な赤の衣装にシルクハットの唐沢寿明がスクリーンが出てきて
月がどうたらこうらたらって趣向を凝らしているのに
一方で「フジのアナです」はないだろう。
ステージで記念撮影会をやってて行列までできてるし。
ああ、これが一般大衆の好むものなのか。
普段ならお金はあっても気後れして入れないような店のフレンチを食べて。
ショーがあって。有名人が目の前にいて。
そしてそこに会社の補助で安くチケットを入手できたから
僕も見に来てるというこの哀しさ。


世界観を形作ったのならばそれを貫徹しきってほしい、と僕なんかは思う。
現実を離れて、その異世界に束の間浸るために金と時間を使いたい。
例えば、シルク・ドゥ・ソレイユの偉大さがよくわかった。
パフォーマンスの質の高さもさることながら、
こんな安易に客席と入れ乱れるようなことは絶対しないということ。
異世界へと導いて、その時間が流れて、そして帰ってくる。
そこに厳然とした距離を保つ。「礼儀」のようなものがある。
ステージと客席があればシルク・ドゥ・ソレイユに限らず
当たり前といえば当たり前のことだが。


あーなんなんだか。
「向こう」で行われているショーを見ながら、一流シェフの食事を楽しむ。
余計なものは何も挟まない。
何でそういう単純なことにしなかったんだろう?
そこには何の説明もなく、何の仕掛けもしない。
僕はそんなのを期待していた。
そちらの方が、1万6000円という金額を払うに値する高級感だと思う。


最後に。
パフォーマーの着ていた衣装は石井竜也デザインによるもので
独りよがりで子供だましな雰囲気があって、
何がいいのか僕にはさっぱり分からなかった。
ロシアから来た若者たちがかわいそうだった。


あともう一つ。
幸運なことらしいんだけど、
タイトル曲を歌う城南海という奄美大島出身の若い歌手が
たまたま登場する日になっていて、ステージで歌った。