手術+入院 その2(11/21)

その後ずっと、編集学校の課題に取り組む。
自分の部屋でないとやはり作業効率が落ちる。
しかもおいそれとネット環境に接続するわけにはいかないと
必要そうなものは全て前日プリントアウト。それをベッドに広げる。
机にノートPCを広げていても誰にも何も言われない。


合間合間に担当の看護婦の方が現れて、書類を持ってきてサインしたり。
先ほどの入院計画とは別に今度は介護計画。
術後麻酔が効いてたりその後ずっと寝てたりでうまく歩けないこともあるからと。
入院に当たっても連帯保証人ありの同意書だけではなく、
患者さんの知る権利に基づいてセカンドオピニオンがどうこうという書類にサインしたり、
身の回りで誰がその連絡先とするかの書類に記入したり。あれこれとめんどくさかった。


課題は結局いつもの1.5倍から2倍ぐらいかかった。
食後計ったかのように同室の患者の方に次々と見舞い客が現れ、賑やかに話し出す。
向かいのベッドにはどうも若い男性が寝ているようで、母親が世話を焼く。
遅れてきた反抗期なのか、入院という特殊な時空間がそうさせるのか、
息子は母の言うことのことごとくに逆らって軽い口論となる。
退院の日はリュックサックがいいのか、キャリーカートがいいのか。
母が爪を切ってやると「ほら、深爪になった」と騒ぐ。
普段看護婦相手に話しているときには丁寧なのに。
聞いてるとなんだかこそばゆい。


今回僕は4日間という短期の入院だったから見舞いはどこからも想定していなかったけど、
長期になった場合、母は遠くに住んでいるし、身の回りの面倒としては誰も来てくれない。
いや、母が上京してくるのか。
こういうとき、独り者じゃいけないなと弱気になる。


家族の問題は難しい。
そういえば昼過ぎにコンビニ行ったとき
2回奥の薄暗いロビーにとある家族が向かい合って座っていて、ボソボソと話し合っていた。
帰りにまた通りがかると
「いったい誰がメシ作って面倒見るんだよ!? どうすんだよ!?」
って男性が怒鳴っていた。
リアルで居たたまれなかった。


6人いれば1人は手のかかる問題児(?)はいるもので、
入口近くのおじいちゃんは「あれを汚した」「これが倒れた」で
通りがかった看護婦がパジャマを着替えさせたりシーツを代えたりと
ことあるごとに手を煩わせていた。
あるときはベッドの中に黒い粒々がいっぱいになっていて、これはなんだと。
見ると黒ゴマ。ご飯にゴマ塩を振り掛けようとして失敗したのだという。
このおじいちゃんはずっと寝てるか、
起きるとナースコールで呼び出してイタイイタイと痛み止めをもらうか。
看護婦はサービス業だと実感する。


総合病院なのでこの病室は肛門科だけではなく、いろんな科の患者が泊まっているようだ。
長いこと入院していると思われる方のカーテンの中が垣間見えると、生活臭が漂っていた。
備え付けのあれこれが自分の取り出しやすい位置にアレンジされ、
見舞いの家族用に複数用意された食器が洗って雑然と並べられ、
誰かが気晴らしに持ち込んだのか小さな人形の類。


看護婦の方から本格的にオリエンテーション
昼にもらった書類の説明を受ける。
「術後は排便のたびにウォッシュレットを使用して、
 排便がなくても1日に3回程度押し拭きをしてください」などなど。
アレルギーはあるか酒は飲むかといった問診があって、身長と体重の計測、
そして実際に歩きながら病棟の説明を受ける。
デイルームであるとか、入浴場だとか。入院者向けの診察室だとか。


その後、肛門の周りを剃毛。
剃るかどうかはお尻を見て判断しますというのでパジャマとトランクスを脱ぐ。
下半身が毛深いってことなのだろう、結果剃ることになる。
ウォッシュレットで洗ったのち、ベッドに戻って横になる。トランクスを脱ぐ。
シェーヴィングクリームを塗るかと思いきや、バリカンでザクザク刈って終わる。
それだけとはいえ、肛門の周りに(振動する)バリカンを当てたことなんて
これまでの人生でなかったわけだから、なんだか不思議な感触だった。
剃り終えた毛がベッドの上に散らばる。
明日洗濯するからってことなのだろう。細かいことには構わない。


それにしても、入院する前はツイッター
「看護婦と仲良くなって合コン。そのためにイメトレする」なんて書いたけど、
実際にケツの毛を剃られてみるとそんな気が全く起きない。


予約制で入浴。1人ずつ。
広めの湯船でゆっくりするが、順番待ちだしと早めに出てくる。
椅子は銭湯と違って背もたれがあった。あれはいいかも。
そういえばドライヤー持ってくるの忘れた、と気付く。


夕飯。
麻婆豆腐、ブロッコリーカニカマの炒め物、
トマトの上にみじん切りのタマネギ、椎茸と菜っ葉と春雨のスープ、お粥。
意外とどれもうまい。麻婆豆腐はもちろん辛さはほぼゼロ。
これを毎日食べてたら痩せるよなあ、健康的だし、と思う。
食後、物足りなくコンビニへ。
飴の類ならいいだろうと思い、探す。ハイレモンにする。


夜、19時に排便処置用の座薬を入れることになっているが、
夜勤の看護婦の方たちがてんてこ舞いで20時になっても現れず。
状況を確認しにいってもそこからさらに待たされる。
問い合わせを受けて何か対応しようとしたら誰かに呼び止められ、みたいな。
その連鎖。まさに戦場。


座薬を2つ入れる。すぐにも効果が現れる。


病室内は携帯電話などもってのほかかと思いきや、
何人か隠れてこっそり携帯を開けたり閉じたりしているのが聞こえる。
病状の軽い人たちの集まっている病室だからか。
向かいの若者はメールを受け取ったり打ったりしていて、
だったら僕も、と思う。
デイルームまで行くまでもないなと。


夜はガーゼに油紙をテープで固定したのをせっせと作って
本を読んで眠る。『サイボーグ・フェミニズム
22時消灯。向かいの若者がずっといびき。