「今日のノルウェー実験音楽」(前編)

先週・先々週の話になるけど、
「今日のノルウェー実験音楽 2011」というイベントに行ってきた。
2回に分かれていて、
2/16(水)が ”アーティスト・トーク&ショーケース・ライヴ”で
2/26(土)が ”コンサート”
http://jimushitsu.blogspot.com/
http://blog.cmflg.com/?eid=116654


ノルウェーというと2001年、生まれて初めて1人で海外旅行で行った場所であって。
そこのところが懐かしいというのと、”実験音楽”というところと。
(実際には、エレクトロニカ・音響系の流れを汲む音楽)


前回は2008年で、今回は2回目とのこと。
企画は「安永哲郎事務室」
2/26(土)の方は旧友の主催する”CMFLG”が協力。そういう縁もあり。


まずは2/16(水)の方について。
場所は恵比寿の「gift_lab」http://www.giftlab.jp/
イベントスペース兼音楽/映像のセレクトショップというか。
東京の最先端の1つはこういうところなんだろうな、と思った。
小さな部屋で、今回は予約制25人まで。
椅子が隙間なく並べられていて前方にささやかなステージ。
僕は一番後ろの隅の席に座った。
背後は大きな棚になっていて、CDがディスプレイされている。


20時開演で、19時半には席についていた。
1ドリンクの瓶ビール(レーベンブロイ)を飲みながら待つ。
今回の入場者特典として受付で「ノルウェー王国大使館特製エコバッグ」をもらった。
中には「ノルウェー音楽を収録したCD」が2枚入っていた。
中身はそれぞれ違うという。
後で司会・主催の方が言うには、ブラックメタル率が高いとのこと。
僕のエコバッグに入っていたのは


・Tri-Dim「Tri-Dimprovisations」
 http://www.hmv.co.jp/product/detail/169787
 (ジャケットの感じからしエレクトロニカかと思ったら、ジャズだった)


・Mantric「Descent」
 http://www.hmv.co.jp/product/detail/3786632
 (今やノルウェー名物の1つ? ブラックメタル


1セット目が始まる。
手作り楽器を演奏する Phonophani とオルガン奏者 Sigbjorn Apeland のデュオ。
オルガンを主体とした曲から、ラップトップを使用した曲へ。
大きなオルガンを持ち込むわけには行かず、
Sigbjorn Apeland は小さなハルモニウムとピアニカを演奏した。


後のアーティスト・トークで語っていたけど、
ピアノが弦を叩く楽器である一方、
ハルモニウムって足踏みペダルで空気を送ってリードが鳴る楽器なんですね。
19世紀後半から大量生産されるようになって、
安価なので小さな教会や学校や家庭へと普及する。
しかし、1970年代に電子オルガンが発明されると急速に時代遅れとなった。


Phonophani が今回用いた楽器は2つ。
1つは六角形のバンドネオンにサンフランシスコ製のサンプラーを組み合わせたもの。
主に古いノルウェー民謡のSP盤からサンプリングしたという。
なんというか、山の奥で木材が奏でる波の音のようだった。
もう1つは1週間前に作ったばかりという、木製の大きなハーモニカのようなもの。
客席に向かった面には3つのスピーカーらしき穴が開いていて、
ヴォコーダーで変調された声や空気音が出てくる。
どちらも中で空気を出し入れすることで音が生まれる。
(前者は蛇腹をふいごのように押したり引いたりするわけですね)
それがデジタルなサンプリング音に変換されて出力される。


参考「slttberg」 以前、楽器の製作過程を動画にしたものとのこと。
http://jimushitsu.blogspot.com/2008/12/slttberg.html


この Phonophani が後の自己紹介で語ったところではトロムソの出身ということで。
僕が訪れた港町ハシュタの割と近くだった。
僕はあのときに出会った風景を思い出しながら聞いていた。
雪に閉ざされた田舎道を一人歩いた日のこと。木々の間を抜ける。
透き通った空気。夕暮れの日差し。


トロムソではアンビエントな音楽が今、主流であるという。


デュオの次は Alexander Rishaug によるラップトップ。
波の音、風の音、砂の音。何千年と無人のままになった架空の都市の喧騒。
この世界の森羅万象のエッセンスを音にしたというか。
果てしなく続き過去と未来と。しかし現在はすっぽりと抜け落ちているような。
ヨーロッパでもアラビアでもアジアでもなく、
例えて言うならば別の惑星の別の自然、別の文化を描いたサウンドトラック。
フィールドレコーディングした音から組み立てているのだと言う。


僕の座っていた席の隣に「ここ空いてる?」と言って座った若そうなおっさん。
36歳と僕と同い年だった。家族を連れて来日していた。
最初のデュオのときまだ小学生になったばっかりぐらいの息子が客席で
(恐らくこの子が)いびきをかいて眠りだして。
あとで休憩時間にトイレの前で説教してた。


3人の演奏が終わって、アーティスト・トークへ。
いくつか話題があったんだけど、覚えているところで。


ノルウェー政府ってのは実験音楽であれブラック・メタルであれ、
楽家を広く、手厚く、サポートするのだそうだ。
例えば海外への公演旅行への助成金など。
そういうのがしっかりしているから今回のようなコンサートも可能となるし、
(25人限定で、ドリンク代込みで2,500円でCDも2枚もらえてって
 どんなふうにペイしているのか最初想像もつかなかった)
ノルウェー音楽」というものが全世界的に知られるきっかけにもなる。


しかし、その「ノルウェー音楽」ってジャンルが
実際に具体的な音の特徴をもって存在するかと言うとそんなことはなく、
3人とも「住んでる人からするとそんなのよくわからないんだよね」って
苦笑するような感じだった。
でも、司会兼主催の方が仰ってたように
木々のぬくもりのような、シンプルでオーガニックな生活から生まれる音っていう
イメージがそこにはあったように思う。


最後に質疑応答ってことで客席から質問が1つ出る。
Phonophani がデジタルな楽器を手作りするに当たって
日本で言うところの秋葉原みたいな場所はノルウェーにあるのか?
…もちろんそんなところはなくて、このインターネットの時代、
eベイなどを利用して取り寄せたりするとのことだった。


この日は22時半頃終了。
Sigbjorn Apeland は帰国するけど、
Phonophani と Alexander Rishaug は次の日より京都や大阪、神戸など
関西方面を演奏して回り、東京に戻ってきて2/26(土)のライブとなる。


(続く)