こんなサントラを持っている その13

――――――――――――――――――――――――――――――
□The Sensational Guitars of Dan & Dale (Sun Ra & Blues Project)『Batman and Robin』


これはすごい。とにかくすごい。奇跡の邂逅。奇跡の名盤。
「Dan & Dale」というグループ名になっているけどそんな2人は実在してなくて、
実際はサン・ラとアル・クーパー。この2人がハモンド・オルガンを弾くわけですよ。
しかもバックがブルース・プロジェクトなので
ギターはスティーヴ・カッツだったりする。
なぜこのような音源がつくられるに至ったのだろう? どんな経緯が?
片や大宇宙の神秘、片やニューヨークの摩天楼ですよ。
理屈で言ったらバランス悪そうなのに、これが意外と”調和”してる。
アル・クーパーはその絶妙なプロデューサーのセンスを遺憾なく発揮したか。
バットマンのテーマ」という具体性を備えたコンセプト・楽曲ゆえに
サン・ラの意識も容易に宇宙へと向かわない。
軽妙だけどどこかちょっと歪んだオルガンとギターのコンボ。
モッドな音で、誰かに指摘されてもサン・ラだって俄かに信じがたいと思う。


――――――――――――――――――――――――――――――
□『Las Canciones De Almodovar』


ペドロ・アルモドバル監督の主題歌集みたいなものか。
1997年発表。僕はどこでどう見つけたのか、全く思い出せず。


収録されているのは順に、
『ハイヒール Tacones lejanos』(1991)
『セクシリア Laberinto de pasiones』(1982)
『Pepi, Luci, Bom y otras chicas del monton』(1980)
『バチ当たり修道院の最期 Entre tinieblas』(1983)
『マタドール Matador』(1986)
私の秘密の花 La flor de mi secreto』(1995)
『神経衰弱ぎりぎりの女たち Mujeres al borde de un ataque de nervios』(1988)
『アタメ Atame!』(1990)
『欲望の法則 La Ley del deseo』(1987)
『グロリアの憂鬱 Que he hecho yo para merecer esto?』(1984)
『キカ Kika』(1993)


数えてみると、90年代前半までの監督作品全部ですね。
フラメンコだったり、ユーロ・ポップだったりスタイルは映画ごとに変わるんだけど、
女の情念をサラッとカラフルに描く曲という点ではどれも一貫している。
ああ、こういう音楽だったよなあと唸ることしきり。
アルモドバル監督のファンだったら必携。
amazon で探せばそんなに難しくなく入手できると思う。


調べてみると『B.s.o.Almodovar』という90年代以後の作品の曲を集めた
コンピレーションも出ているようだ。これをそのうち買ってみようと思う。


――――――――――――――――――――――――――――――
□『The Lovin' Spoonful Kama Sutra Box』


『Do You Believe In Magic ?』に始まり、
The Lovin' Spoonful がカーマ・スートラ(レーベル)に残した
全アルバムを収録したボックスセット。日本独自の企画なんだろうな。
4枚組の4枚目が2枚のサントラを収録したもの。
『What's Up. Tiger Lily』と『You're A Big Boy Now』共に1966年。


フォークとブルースを根っこに持ちつつも
ニューヨーク出身らしい軽快で小粋、ペーソスのあるポップ・ミュージックは
インストだけの映画音楽にもぴったり合う。
ジョン・セバスチャンのハーモニカが
ライトでもウエットでもないほどよい情感を、
ザル・ヤノフスキーのチャカチャカしたギターがコミカルな味を生む。


今改めてブックレットを読み返してみたら
前者はウディ・アレンの、後者はフランシス・フォード・コッポラの、
それぞれ初監督作品だった。


『You're A Big Boy Now』の「Lonely (Amy's Theme)」は名曲。


――――――――――――――――――――――――――――――
□『The Boat That Rocked』


ラブ・アクチュアリー』(The Beach Boys「God Only Knows」が印象的でしたね)
リチャード・カーティス監督の2作目『パイレーツ・ロック』のサントラ。
フィリップ・シーモア・ホフマン
「おまえ嘘だろ」って言いたくなるようなかっこいい役柄で主演。


ただでさえ自由自在にレーベルの垣根を越えて
コンピレーション・アルバムが作れるイギリスで
(確か法律的にそうなっていたはず)
さらに1960代後半のロック専門の海賊ラジオ局をテーマとしているならば…
もうやりたい放題、選びたい放題ですね。うらやましい。


最初の曲こそ Duffy のカヴァーした「Stay with Me Baby」であるもの、
以後の曲順が
The Kinks「All Day and All of the Night」
The Turtles「Elenore」
John Fred & His Playboy Band「Judy in Disguise」
Martha Reeves & The Vandellas「Dancing in the Street」
The Beach Boys「Wouldn't It Be Nice」
と連打する。できすぎ。これは悔しい。


さらに、
Jeff Beck「Hi Ho Silver Lining」(このシングルを選ぶなんて…)
The Who「I Can See For Miles」
The Box Tops 「The Letter」
Procol Harum「A Whiter Shade of Pale」
The Moody Blues「Nights in White Satin」
Dusty Springfield「You Don't Have to Say You Love Me」


などなど。
もう1曲入ってる The Kinks が「Sunny Afternoon」
ダメ押しのオンパレード。
2枚組めいっぱいに名曲が詰まっている。普通に当時のコンピとして最高。
高校時代、こういうテープ作ったよなあ…


映画そのものはたいしたことなかったけど、ロック映画としては秀逸。
これら名曲たちが主役で、ストーリーやキャストは間をつなぐためだけにいるような。


――――――――――――――――――――――――――――――
U2『Rattle and Hum』


ロック・ミュージシャンの演奏生活をテーマに据えたドキュメンタリー。
その最高峰は結局のところU2の『魂の叫び』なのではないかと今でも思う。


初めて観たのは上京してきたばかりの18歳、大学1年生のときに寮の先輩の部屋で。
東京ドームでの「ZOOROPAツアー」の電話予約が始まる日の朝、
寮の玄関の公衆電話を3人で占拠して何度も「ちけっとぴあ」に電話をかけ直して
(インターネットの時代になって最近の若い人はこういう経験ないんですね)
ようやくチケットを入手、その日の夜なんかに「予習だ」ってことで観たのだと思う。


そのときの先輩の解説で今でも忘れられないのは
この映画の中で最もかっこいい場面ってのは
コンサートの本編が終わって舞台裏に引っ込んだときに
ドラムのラリー・ミューレン・ジュニアがきびきびと演奏のダメ出しをするところ。
U2のステージを組み立てているのはボノでもエッジでもなく、ラリーだった。
そのラリーがベースのアダム・クレイトンに指示を出すのだが、
残り3人と比べていつも「こいつ分かってないんだろうなー」※
というキャラのアダムはヘロヘロしていて聞く気なし。
そのときの天然な表情が素晴らしい。


U2のアルバムの中ではこのサントラが僕は一番好きなんだけど、
コアなファンからするとそれはちょっと違うようだ。


※シリアスな「With or Without You」のミュージック・クリップにて
 思いっきりブイブイと腰を振って演奏しているところなど。