国境沿いの町


国境沿いの町に暮らす。川が流れている。検問所がある。兵隊が立
っている。その横で灰色の犬が伏せている。広場にトラックが到着
する。どこからか流れてきた物資が配給される。主に着古したボロ
ボロの衣類たち。食器。本。群がってすぐにもなくなる。別なトラ
ックからは怯えた人たちが銃で促されて下りてくる。この国の言葉
を話せない。小さな子供を抱えた家族が寒さに震えている。老夫婦
が何組か。若い夫婦も。皆、みすぼらしい格好をしている。わずか
ばかりの食べ物を与えられ、また別のトラックに乗って、消えてい
く。その川を渡ることはできない。誰にもそれはできない。私はそ
の日手に入った食べ物を紙袋に入れて、二階の部屋へと戻っていく。
机に座って固くなったパンと水気を失ったリンゴを食べる。お湯を
沸かしてお茶を淹れる。その温かさを両手で味わう。窓の外には向
こう側の国が見える。同じように寂れた町が広がっている。検問所
と兵隊、灰色の犬。無言でゆっくり歩いている人びと。私はカーテ
ンを引き寄せた。そして机の端に置いた写真立てを見つめた。肘に
当てたばかりの上着を着ると部屋を出て、また広場へと戻った。い
つものベンチに腰掛けて、待つ。目を閉じて1、2、3と数えてま
た目を開ける。子供たちが遊んでいる。鳥たちが白い雲に覆われた
空を群れになって飛んでいく。私はいつものように何もせず待って
いる。ただ時が過ぎ行くのを待つ。上着のポケットにはいつも小さ
な本を入れている。しかしそれを読むこともない。どれぐらいの時
間が経過しただろうか。隣に男が座る。私が小さく声をかけると、
男もまた例の言葉を返す。男が私のほうにそっと手を伸ばす。ベン
チの上で私もまた同じように手を伸ばす。指の先に紙切れが当たる。
ざらざらして、その糸くずまで感じられるようだ。さっと受け取っ
て手を引っ込める。紙切れを両手の中にしまって、それを上着のポ
ケットの中へ。本の間に仕舞う。誰に届けるべきかは、中に書いて
あるのだろう。男は既に立ち上がっている。金は…、誰かから指示
があるのか。それとも今回もまた、ただ働きか。内ポケットを探っ
て煙草の箱を取り出す。最後の一本だった。マッチを摺った。見上
げると鳥の姿は無い。子供たちがボールを蹴りあって遊んでいる。
ベンチにまで転がってきて、私は立ち上がる。拾い上げて、子供た
ちが近付いてくるのを待った。