「矢中の杜 ”縁”プロジェクト2011」後編


寂れた商店街をトボトボと歩いているうちに「旧矢中邸」に出る。今回の会場。
ここは地元の名士が晩年を過ごすために昭和初期に建てたという邸宅。
生活の場である本館と客人をもてなす別館がある。文化遺産にもなっているという。
これを保存し、地域文化の発信をしていくことを目的とした
「矢中の杜の守り人」というNPO法人が企画したのが
http://yanakanomori.tsukuba.ch/
「矢中の杜 ”縁”プロジェクト2011」
この邸宅の見学と裏庭など周囲の屋外を舞台にしたダンスと演劇の公演。
スタッフはとても若い。学生サークルみたい。それもまたよし。


さっそく中に入ってみる。階段を上がって2階が玄関となる。
NPOの方に少し案内して頂く。
本館は普通に昭和の民家。狭い居間には古びたテレビや引き出しがあって
その上にこけしや民芸品のたぬきの人形が並んでいるというような。
壁に掛けられたカレンダーは1975年1月のままになっていた。
そのときまで住んでいたのだろう(僕の生まれた年だ)。
「雪見障子」というものを教えてもらう。
二重になっていて、普通の障子の真ん中が小窓のように開くようになっている。
上下に開くのが一般的なんだけど、ここでは左右に開く形になっているとのこと。


隣の書斎にはいつの年のものなのか『主婦の友』の束、一年分。
廊下には子供用の小さなピアノ。
女中の住む部屋には足踏み式のミシンが置かれていた。
台所の冷蔵庫は木製。その上に網戸で覆われた調味料の棚。
床の間に掛け軸。外には井戸。古きよき邸宅。
居間もそうだったけど、あちこちの部屋に小さな神棚があって祀られている。
別館へ。客間は襖や欄間に日本画っぽく牡丹を描いたり、
中国の山水画っぽく山々を描いていたり。
正直これらはあり合わせのまに合わせっぽかった。悪くいうと成金的?


一通り見終えると外に出て、階段を降りて、建物の下層に埋め込まれた土蔵へ。
ここが臨時のカフェとなっていて、コーヒーを飲みながら
グリーンティーとコーヒーのクッキー、アンドーナツを食べる。
近くのお菓子屋さんの手作りだそうだ。
なしを剥いたのも無料のサービスで提供されていた。
(つくばで昼を食べず、バス停を下りても特に食べるところがなく、
 日中口にできたのはこれだけ…)


時間が来て、最初の「AAPA」によるダンスを観る。
グループのダンサーは4人? プラスして「矢中の杜の守り人」から2人?
邸宅の玄関前の灯篭のある石組みの庭園から始まって、
崖下の土くれた裏庭へ、さらに奥の高台にあるもうひとつの庭園へ。
ストーリーと共に場所を変えていく。
音楽がよかった。音響担当の青年が手にした iPhone か何かを操作すると
背負ったデイパックの両脇、本来ならばペットボトルを入れる網のスペースに
小型のスピーカーが入っていてそこから音が出る。
最初は「矢中の杜の守り人」の若者たちの日常会話の録音なのだろうか。
それが近くに住む町の人へのインタビューとなって、家族の会話になって、
そこに障子を開け閉めする音が加わってそれが繰り返されてリズムとなって
草刈機を動かす音をリアルに出して重ねて、というのが変調してノイズとなっていく。
水道の蛇口をひねってバケツに少しずつ水を入れていく音だとか。
最後の方ではメロディーのある曲も流れていた。


終わって1時間時間が空く。外で本を読みながら待つ。
ずっと外で鑑賞していたので体が冷える。コーヒーと紅茶を何杯も飲む。


百景社はL字型の縁側に観客席が用意されていた。
急斜面の段々になった崖下の土くれた裏庭がステージとなる。
僕は目の前に練炭の置かれた席を選ぶがそれでも寒い。
ホッカイロが1人1個ずつ配られ、毛布も貸し出された。
それと演出の都合上、水をかぶるかもしれないと「スプラッシュシート」なる
ビニールシートが前方の席に。
そう、あちこちにモニターやスピーカーが置かれているけど、
どれも水をかぶっていいようにしっかりと覆われていた。
前面の大きなモニターには日没までの残り時間が秒単位で映し出されていた。
席に着いたときには既にパフォーマンスが始まっている。
3人の男性の役者たちは地下足袋に黒のスーツ、
そしてお面代わりに真四角の白い板をかぶって崖の上をノソノソと動いている。


時間が来て、「斜陽」を開始。
青森出身の僕はどうもこの作品が好きになれずにいた。
だけど今回の大胆かつ的確な要約で初めてその面白さがわかった。
太宰の影を微塵も引きずってないのがよかった。
敬意を払ってないというのではなく私たちはこう解釈するけど、ありでしょ? と。
ファンキーでエキゾチックな「斜陽」
野外劇という場にこだわってきただけあって、時間と空間の捉え方がさすが。
(ビデオカメラと日没のところなど)「あ、そういうのありなのか」
そういうアイデアの1つ1つに唸らされた。
いや、最初から最後までとても面白かったですよ。
「旧矢中邸」という場所の都合もあるんだろうけど、
週末に4回だけという公演は非常にもったいない。


終わって、とある役者の方とお会いして少し話す。感想を伝える。
(僕の教え子なんですね)
今週は雲ひとつない晴天で演出の目的上もベストなコンディションだったけど、
先週はずっと雨が降った中で野外劇だったのだとか。大変だ。


その後演出家によるトークもあったのだけど僕は帰ることにする。
日もとっぷりと暮れている。
バス亭まで戻るとちょうど行ったばかりで30分ほど待った。
つくばエクスプレスに乗って秋葉原へ。
人通りの多い電気屋街を歩いてカレーを食べて帰った。