熊野古道を歩く その6(2/18:補陀洛山寺〜那智大社)


大通りを渡ってすぐのところに浜の宮王子、そして補陀洛山寺。その隣に熊野三所大神社。
補陀洛山寺は「補陀落渡海」の出発点だった。
四方に鳥居の据えられた一人乗りの小さな舟に乗って行者が浄土を目指す。
沖まで引っ張ってもらうとそこから先は箱の中で過ごし、外に出ない。漂い続ける。
土の中に入って断食して即身仏になるのと意味合いは一緒か。捨身。修行の究極の姿。
平安時代から江戸時代半ばまでにここから20回の渡航があったのだとか。
心変わりして戻ってこようとすると阻止されたという。
本堂の側に小さなお堂があって、渡海船のレプリカが飾られていた。
本堂の中では千手観音像が重要文化財となっている。
僕が気になったのは鬼を踏みつけていた仁王像らしきもの。


那智大社まで歩いていく。バスが出ているんだけど、8kmの距離。
これぐらいなら十分歩いていけるでしょうと。
http://www.wakayama-kanko.or.jp/walk/022/map.html


国道43号線を西へ。また雪が降り出す。
川沿いを歩く。昨年の台風の被害はすさまじかったようで、あちこちに土石流の跡が。
高いところにあるにもかかわらずガードレールがひしゃげて落ち込んでいた。
上流に行くと壊れて打ち捨てられた家屋をいくつも目にした。
後で那智の滝前のバス停でお土産屋のおじさんから聞いた話では
更地にしたところも多く、70世帯ほどのお年寄りが仮設住宅に今も住んでいるという。
新しい家は被害が最小限だったのだろうか、
何事もなかったかのように日々の暮らしが続いているように見えた。


歩く先々で「那智黒」と書かれた飴の看板がかかっている。名物らしい。
古びた家の多くは半農なのだろうか。傾きかけた小屋に年季の入った農機具が並んでいる。
入り口の壁にはフマキラーやフジカラーの色褪せて錆び付いた看板が貼り付いている。


途中の脇道から熊野古道に入ろうとするも台風で通行できず。
橋が流されたままになっていた。仕方なくまた国道を歩く。
尼将軍供養塔というのがあったようだが、見ることはできなかった。


途中、また熊野古道への合流ポイントがあった。坂道を登っていく。市野々の村が見渡せた。
「ふだらく霊園」というまだ空きの多い墓地と樹齢800年という柿の古木があった。
脇に据え付けられた解説を読むと古木は源頼朝の時代に植えられたものだという。
痩せ細った木が鉄柱に絡みついてようやく地面に立ち上がっている。
少し先まで歩いていくと標識があって、矢印の先には「補陀洛山寺・浜の宮王子」
あれ? 逆方向?? 少し考えて気付く。
先ほどの通行止めで渡れなかった箇所をそのまま歩いてくるとここに出るのだ。
そうか、と引き返す。坂の終わりには炭を活かしたモダンな家があった。
表札はあるものの生活感がない。誰か名のある人の別荘なのだろうか?
庭先では梅が咲いていた。


その近くに笛の名手にして14歳で亡くなった平敦盛を供養するための五地蔵があった。
田んぼが多くなり、石組みの段々になっている。この辺りは石垣が多い。
ミカンの木も成っている。
市野々王子を手早くお参りして通り過ぎる。
市野々小学校だっただろうか、廃校になっていた。台風からの影響があるのか。
ビニールシートであちこち覆われ、校舎の時計が止まっていた。


温泉のある那智カマボコセンターや和菓子の那智ねぼけ堂。
農家の庭先に案内の標識があって、薬師堂が奥の方にあると。
「首から上の病」に効くという。メモし忘れたけど呪文を3回唱える。
行ってみる。ささやかな流れを歩いて渡る。
小さなお堂があって、その格子戸に無数の五円玉が糸で括りつけられていた。


民家が続く。屋根にはソーラー発電のパネルをセットしているところが多かった。
もう何年も前からと思われる廃屋に打ち捨てられたユーノス・ロードスター
窓が割られて落ち葉が入り込み、空き缶が転がり、シートは苔で覆われていた。


大坂門の駐車場でトイレ休憩。そのまま大坂門まで歩いていく。
ここの茶屋にて平安衣装のレンタルを行なっている。
昼を食べていなかったしここで、と思うが聞いてみたらあくまで昔の茶屋跡であって
飲み物・食べ物は提供していないとのこと。
その先には南方熊楠が滞在して粘菌の研究を行ったという大阪屋旅館跡。


樹齢800年の夫婦杉が左右にお出迎え。木々の中、ハードな石段を上っていく。
昨日の神倉神社ほどではないがなかなかしんどい。思わず無言になる。
熊野九十九王子の最後のひとつ、多富気王子の跡に出る。
古木が立ち並ぶ。根元から崩れていたり、鉄で内側を補強されていたりする。
おむすびを転がしたらネズミの住処に出そうな穴が空いていて、
覗き込むと何かが光っている。Fさんはふくろうでないかという。
他に観光客の姿はなし。二人で歩いている音しか聞こえない。
そこに雪が降り出す。那智大社のほうから静かに風が吹き付けてくる。