エチュード:No.1

「今日誰も来ないっすね」
「期末テストでしょ? キミはいいの?」
「先輩は? 推薦で決まると受けなくていいとか?」
「今更上位目指してもしょうがないし。
 私の順位が下がることで誰かの自信につながるなら、
 私、今、けっこういいことしてるし。…来年受験生でしょ? いいの?」
「いいっす、まあ。…それにしても裏方だけの演劇部って何もすることないですね」
「そんなに演劇部のことが好きなら、照明やめて役者になればいいのに。
 あ、え、い、う、え、お、あ、お」
「先輩いい声してる。なんでやめたんですか?」
「才能無いし、いや、無かったし」
「17歳が言うことじゃないっすよ」
「いーの。余計なお世話。大工道具持ってるほうが楽しいって気付いたし」
「大学行っても演劇関わりますか? 舞台装置専門のサークルもあるって」
「やんないと思う。全然違うことする。テニスとかさ、するよ」
「似合わねー。テニス。…なのに今、演劇部の部室にいる」
「好きだからね、ここが。居場所。落ち着く。あー」
「…タバコ吸っていいですか?」
「見張ってるから窓から出て裏で吸いなよ」
「外、寒い。じゃあいいや」
「あ、そう」
「ちょっと。なんでノコギリ取り出すんですか!?」
「いいじゃん、暇だし」
「何を?」
「何も。でも、なんか切りたい。板とかあったら半分に割りたい」
「錆びてる」
「プロじゃないしね。新しいの買って、寄付して残していくか。
 あーでも私いなくなったら、大道具誰もいなくなるか」
「寂しくなりますね」
「心にも無いことを。つうかキミ、用が無いならさっさと帰ったら?」
「家帰ってもすることが無いし」
「こんにちはー。あ、先輩」
「お、主演女優。テストは? 終わったの?」
「ヤマがひとつ終わりましたー。もーブツリがサイテー。
 ちょっとちょっと、聞いてくださいよー」
「なに?」
「この前ここに去年の答案用紙あったじゃないですかー。
 あの通り今年も出ると思ってたら全然違うんですー。もー! 嘘つき!!」
「誰も嘘なんかついてないじゃん、あはは」
「でもー、騙されたんです、私は!
 …あーあ。今日は帰って図書館に行って勉強します。じゃ」
「あ、オレも行く」
「来る? ベンキョーするのー?」
「オレだってするよ。今日は。ね、ノート借りていい?」
「えー。先輩は? どうするんですかー?」
「ここでマンガ読んで過ごす。ひとり、静かに」
「そうすか。じゃあ行きます。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー」
「お疲れさん。じゃあね。また、明日」