『Exit through the Gift Shop』

ロンドンのテート・ブリテンやニューヨークの MoMA に勝手に自作の絵を飾ったとか
イスラエルパレスチナの間の壁にグラフィティを描いたとか
BlurThink Tank』のジャケットを手掛けた後はどんなオファーも断っているとか
伝説的なストリート・アーティストであるバンクシーが手掛けた
初監督作品『Exit through the Gift Shop』を今更、借りて観た。


アトリエの中で素顔を隠して音声も変えたバンクシーが冒頭に登場。
バンクシーに関するドキュメンタリーかと思いきや、
このドキュメンタリーを撮っているヤツの方が面白いと
「Thierry Guetta」が主役となる。
元々はフランスからロサンゼルスに移住した古着屋。
何でもかんでもビデオに撮影する趣味がいつのまにか
対象がストリート・アートに絞られてきて、
夜中に作業していたら警察に捕まるかもというスリルが楽しかったり
ゼウスであるとか大物を撮影し続けるうちにアレヨアレヨという間に
神出鬼没で正体不明のバンクシーに辿りつく。
これまでに撮りためた映像は貴重な記録だからドキュメンタリー映画にすべきと
バンクシーは主張、しかし作ってみたらどうしようもないクズだった。
映画はバンクシーがつくることにして、
ティアリーがストリート・アートに進出したらどうだということになる。
ティアリーは「Mr.Brainwash」という名前で活動開始、
途中の下積みを全てすっぽかして
いきなりスタッフを雇って作品制作、そして大規模な個展へ。
「LA Weekly」にも取り上げられ、最初の1週間で100万ドルの売買契約を達成。
現代版シンデレラ? 
でも作品はウォーホルの二番どころか三番煎じでどれも陳腐このうえない。
エンドロールに登場人物のその後が出て来て、
Mr.Brainwashは今やマドンナのアルバムのアートワークも手掛けたとのこと。


いやーよくできたフェイク・ドキュメンタリーだなあ、
バンクシーとティアリー、撮る側と撮られる側の関係性の反転が面白いなあ、
この成り上がり感も皮肉が利いてるなあ、…と思っていたら。
この Mr.Brainwash って実在するんですね。
マドンナの2枚組のブックレットを見たらほんとにクレジットされていた。
例えば、こういう記事。
http://www.frontstyle.com/column/newyork_009.html


どこまでが現実でどこまでがフィクションなのか分からなくなってくる。
Mr.Brainwash はこの映画の撮影の前から存在したのか、
それとも映画と共に作り上げたキャラクターが一人歩きし始めたのか。
バンクシーにはしてやられたり、です。
なんだ、この発想。スパイク・ジョーンズ以来の才能。