その国では死者の魂は虹の中に暮らすという。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
生前の行いに応じて七つの色に振り分けられる。
地上に残された者たちが彼らに会いたくなったとき、
雨が降ることを願う。
雨上がりの束の間、あの赤い色がそうなんだ、と思う。
魂は天上に上りきらず、地上との間のどこかで彷徨う。
肉体を持たず、形を持たない。
ただ、光として色として存在する。
それは水と出会うことによって様相を変える。
隠れていたものが表に出る。しかし、長くは続かない。
水はそこから流れ去るものだからである。
そこではより高次の存在として個々の魂は溶け合って、
誰と特定することはできなくなる。
赤は赤、青は青。そしてその境目があるというだけ。
誰か一人の魂がそこに昇るたびに
別の一人分の存在が天上へと消えていく。
この世ならぬどこかへ、虹というもののないどこかへ。
日照りが続いて雨が振らない、虹が出ないというときは
死者たちが地上に生きる者たちの振る舞い・行いに
怒りを感じているとされる。
虹は七色から先、増えたりも減ったりもしない。
それだけが、この宇宙が生まれてから死ぬまでの間に
万物が移ろいゆく中で唯一普遍の決まりごととなる。
別の国では虹に死者の魂を見ることはない。
虹は虹に過ぎない。
彼らは天国や地獄といった仕組を考え、伝えていく。