「流刑」

こんにちは。お元気ですか。
前にも書きましたが、お返事は特に期待していません。
この前つい送ってしまったおせっかいな手紙が
あなたの元に届いたのかどうか分からないのですが
わたしの元に戻ってくることはありませんでした。
だから少なくとも封筒だけは、そこに記されたわたしの文字だけは、
あなたの目に触れたのではないかと思っています。


封筒のことを話しておきたいです。
ゴワゴワしたかたい紙に驚いたかもしれません。
あれはわたしがこの村に来て教わったすき方で
初めてひとりでつくってみたものです。この便せんだってそうです。
秋の日に拾い上げた落ち葉をくだいて、少し混ぜています。


さっそくですが、この前の続きを書きます。
わたしの父はわたしが13歳のときに家を出て行きました。
そのときいろいろあって、初めて、わたしが母だと思っていた人は
血のつながりがなかったことを知りました。
父が何番目かに愛した女性だったのでしょう。
今日のような吹雪の日にあの人は帰ってきたわたしを呼び寄せ、
石油ストーブに手をかざして温まりながら、その話をしたのでした。
世の中には知らなくたっていいこともあります。
わたしはそのことを知りたくはありませんでした。
あの人のことをこれまで通りお母さんと呼びたかった。
甘えたかった。つつましく生きていきたかった。


わたしは何かを叫んで、何かを突き飛ばして、
家を飛び出すと暗くなるまで外にいました。雪が頭や肩に降りつもりました。
街はずれをどこをどう歩いていたのか。
それをどうやって探したのか。あの人が迎えに来ました。
わたしの目の前に無言で立っていて、うなずくと、ふたり並んで無言で帰りました。
わたしは、泣いていました。
あなたにも会わせたかった。
その話はそれっきりで、何事もなかったかのように月日が過ぎ去って、
わたしが17歳のときに流行り病で亡くなりました。
父はどこにいるのか分からず、わたしはひとりであの人の写真を抱えました。


こんなことを書いたからといってあなたがわたしを許してくれることはきっとない、
それは分かっています。
わたしの暗い過去を語ってあなたの慈悲にすがろうとしているのでもありません。
あなたがわたしのことを日々、鬼だと言っていたこと、
心の中で憎んでいたこと、知ってます。そう、鬼だったのでしょう。
そんなわたしにも人としての過去があったのです。


これが最後です。あなたに向けてもう二度と筆を取らないことを約束します。
さようなら。くれぐれも体には気をつけて。


追伸。
ここで過ごす初めての冬。窓の外には村が広がっています。
明日はわたしたち囚人のために
村の人たちが火祭りを演じてくれることになっています。
今はそれだけが楽しみです。