「砂鉄」

友達の家でゆるいパーティー
朝まで飲むことになって気がついたら眠っていた。
夜更けに目を覚ますと部屋の中は暗くなっていて、
隅の方で知らない二人がキスをしていた。
私は寝ぼけたフリをして立ち上がりわざとヨロヨロ歩いて
その辺にあったサンダルを履いてドアを開け、外に出た。
背後から囁く声が聞こえた。「だれ?」とか言ってた。


通りを隔てて目の前に小さな公園がある。
誰もいなかった。腕時計を見た。もう少しで夜が明ける時間だ。
ブランコに乗って、揺れた。遠くを車が横切った。
こんなとこでわたしなにしてんだろうな。


「ねえ」
振り向くと誰かが立ってた。
ミカコの友だち、だったかもしれない。名前が思い出せない。
昨日隣に座って少し話した。学校のこととか、就職のこととか。
クシャクシャになった、自分のものじゃないシャツを着てる。
「飲まない? どっちがいい?」
缶ビールと缶チューハイ。私はチューハイにした。
彼女は隣のブランコに腰を下ろした。
「カンパイ」缶を持ち上げたから、私もそうした。


特に話すことはなかった。ポツリポツリと互いに自分のことを語るだけ。
交差してるのかしてないのか。でも時々、
小声で「あ!」とか「え?」とか言い合って、なぜか笑えた。
頭の片隅でどこか眠たかった。始発になったら帰ろう、と思った。
向こうも同じことを考えていたみたいで、
「どうする?」って聞かれて
家の中に戻って荷物を取って、出ようとした。


「あ、オレも行く」
二階から降りてきた男の子が酔っ払った感じもなくて、普通についてきた。
あなたの友だち? 向こうもそう思っているのか。聞くまでもなかった。
三人で特に会話もなく、駅までの少し遠い距離を歩いた。
白々とだらしなく夜が明けた。
信号が赤になって立ち止まる。
男の子が私に話しかけてきて、私は物憂げに答えた。
何を聞かれてるのか、何を答えているのか、分からなくなった。
こんなとこで、わたし、なにしてんだろうな。


駅に着いて、どっち? という話になる。
男の子は反対方向だった。彼女も、そう。
そこで別れて別々の階段を上ってホームに出た。
向こう側、少し離れたところに二人は立っていた。
男の子が話しかけて、女の子が笑う。少し、近づいている。
私のことなんてもう忘れてしまっただろう。


電車が入ってきて、座ることができた。
窓の向こう、二人の姿が消えていく。私は探した。
でも、二度と会うことはないだろう。
この一日は終わったのでもなく、始まったのでもなく。
宙ぶらりんになってまだ続いている。
私は顔を上げて風景を眺めた。
東京が、広がっている。
全てがまっさらになって地平線の彼方まで。そんな東京を思い描く。
次の駅に着いて下りる人がいた。乗ってくる人がいた。
私の知らない誰かが、隣に座った。