オノクラ汁講その11

(2/18(月)夜)


次はその裏の耕三寺博物館へ。
http://www.kousanji.or.jp/
ガイドブックを読むと「母の菩提を追悼するために造られた寺」とあり、
重要文化財に登録された仏像を多数収蔵しているとか
美術館のコレクションには横山大観の画がなどと聞くと
そんな面白いものには全く感じられなかったんだけど。
行ってみたら、なんだこりゃ!? と。
21世紀実写版孫悟空のセットかと思った。
平等院鳳凰堂日光東照宮など名だたる建築物を模したとか、
建てたのは実業家だという辺りがなんというか
成金趣味の買えないなら造ってしまえ精神というか。
結果いいとこ取りの折衷主義となる。
どこまで本気? ガイドブックはみな
当たり障りないことしか書いてないけど腫れ物に触るよう?
…これ以上言ったら殺されそうだ。


1936年建立とまだ100年も立っていないがゆえに妙に新しい。
堂塔の豪華絢爛な赤と白の鮮やかさがフェイクなサイケデリック感満載で。
聳え立つ救世観音大尊像とかさ。仏教系テーマパークのアトラクションのよう。
千仏洞なんて天然なのか掘ったのか洞窟の中に
第一等活地獄から第八阿鼻地獄まで
八つの地獄の絵が飾られてライトアップされて、
地獄道・餓鬼道・畜生道修羅道・人間堂・天道へ。
その先はその名の通り千体もの仏像が洞窟の中に渦巻く!
…これ、一気に作ったわけでしょう。たぶん。何年かかけて。
ここまで来ると感心してしまった。すごい。絶対見た方がいい!!
「未来心の丘」も芸術家支援となってるけど、とにかくスケールがでかい。
「5,000?の敷地に3,000トンの大理石」とあってもう何がなにやら。
これより大きなモニュメントは世界に存在するのだろうか?
真っ白な大理石の中を歩いていると、天国の中にいるような気分になった。
…これら大理石の彫刻の間から垣間見える生口島の町並みと瀬戸内海のシュールさ。


通りを隔てて金剛館では落ち着いて
重要文化財の仏像が普通に並んでいてホッとする。
2階の企画展はテーマが「宝船」これがとても面白かった。
閉館間際でじっくり見られず、かつ図録もなし。残念。
主に昭和初期がメインなんだけれども一口に宝船と言っても
画風に限らずいろんなバリエーションがありえるんですね。
どんな船なのか、誰が乗っているのか。宝とは何なのか。
江戸時代の女性が窓の外の舟を眺めているなんて洒落た意匠もありえる。
これはちょっと僕も掘り下げてみたくなった。


17:00 自転車に乗って博物館を出てコンビニでビールを買って、
そのまま帰るつもりが雨脚が弱くなったので海辺に出て
西の端のサンセットビーチまで3km走ってみることにする。
しまなみ街道はサイクリストの聖地だけあって
サイクリングロードが整備されていて走りやすく、
海辺に椰子の木が植えられていたりして眺めもいい。
気持ちよく漕いでいるうちにあっというまに到着する。
海水浴場。砂が黄色くて土のように粒度が大きい。
寄せては返す波は静かで、
波打ち際の水は透明度が高いどころか透明だった。
こんなきれいな海は沖縄でも見なかったような。
そんな冬の海が見渡す限り人の姿がなく、
貸切になってしばらくの間、波の音を聞く。
来年は自転車で1週間ぐらいかけてしまなみ街道を回ってみたいと思った。


帰りにまた雨が強くなってずぶぬれ。
部屋に戻ると温泉に入りにいく。
名物のレモン風呂。輪切りのレモンが浮いている。
ゆずとか柑橘系と一緒で、体にいいんだろうな。
お湯の流れに合わせて時計回りに少しずつレモンが回っていく。


19:00 食事。仲居さんか他の従業員の息子さんなんだろうか。
地元の高校生、という風情の男の子が白のエプロン姿で運んでくる。
天ぷら、刺身と一般的な旅館のメニューなんだけど
鍋かと思いきや牡蠣の酒蒸しであったり、
ホタテの刺身はレモンの皮に入っていたり。
煮付けの黒い魚も天ぷらの小さなオコゼっぽい魚も瀬戸田産か。
穴子の茶碗蒸しは倉敷の「梅の木」でもそうだったな。この辺りでは一般的?
梅くらげもあちこちで食べたような。
ジャコごはんとデザートはやはりレモンのゼリー。
シベリアの隕石に関する NHK の番組を見る。


母に電話をする。尾道から蒲鉾を送ったと。
東京都港区が美術館巡りのバスを土日に出していると聞く。


風呂に何度か入りに行く。21時に1階と4階の風呂を入れ替える。
4階の方はレモン風呂の木の浴槽がレモンの形に曲線で組まれている。
もうひとつの通常の風呂は足を伸ばせる家風呂のよう。
一人用。窓の向こうに雨の降り続く夜の明かりのない瀬戸田港。
23:00 フロントの閉まる前にお酒を頼む。
広島最後の夜。「酔心」の熱燗を2合、徳利を2本。


大原美術館ミュージアムショップで購入した
松井えり菜と鯉江真紀子の「AM倉敷」での作品集を兼ねた記録集を眺める。
松井えり菜はウーパールーパーに似ていると言われたことから
モチーフにするようになり、マトリョーシカ備前焼きをつくったり
被り物をして倉敷で写真を撮ったり。
もうひとつのテーマは存在感を極限まで高めた自画像。
双子になった顔がみっちりとつながりあっていたり。
鯉江真紀子は写真を使って絵を描く。
多重露出を利用して大原美術館の展示風景と倉敷の自然を重ね合わせる。
木漏れ日、夏の日差し、壁に掛けられた作品たち。
写真ないしは絵画における「時間」とはなんであろうかと考えさせる。
もう1冊、倉敷で買った『ラジカセのデザイン!』を途中まで。
SONY を中心に1970年代末の箱型、ボタンのたくさんついたラジカセたち。
機能性とデザインとがここまで融合するものなのか。
気が付いたら午前1時近く。眠る。