『凍りの掌』『地上の記憶』

金曜の夕方、ふとマンガが読みたくなって神保町三省堂の2階へ。
2冊目に留まって、どちらも知らない人だったけど
妙に気になって買ってみた。


おざわゆき『凍りの掌』
http://www.amazon.co.jp/dp/486225831X/


白山宣之『地上の記憶』
http://www.amazon.co.jp/dp/4575943738/


『凍りの掌』は父の体験した、
それまで全く語ろうとしなかったシベリア抑留について
娘が聞き書きしてマンガにまとめたというもの。
出征編、収容所編、帰国編の三部に分かれて自費出版で発表したのが
話題となり、1冊の本として刊行された。
帯には「第16回 文化庁メディア芸術祭 マンガ部門新人賞受賞!!」
とある。いや、どういう賞なのか分からないけど、
広く世に知られてしかるべきマンガだと僕も思った。


終戦間際、19歳で徴兵されて満州へ。
終戦後安価な労働力を求めたソ連軍によりシベリア送りとなり、
極寒の地・劣悪な環境の下で日夜労働作業を繰り返す。
凍傷になり、肺炎になり、食べ物も乏しく仲間たちが次々に死んでいく。
共産主義の洗脳教育があり、自分だけは助かりたいと裏切りがあり、
どんどん人が人ではなくなっていく。
描かれていることはぞっとするような人の闇なんだけど
それが(作者の元々のスタイルとして)ほのぼのとした絵で綴られる。
これが逆に切ない。というかこうとしか描きようがない。
リアルに描かれたら、辛すぎて読めない。正視できない。
横たわる溝の大きさ、深さに気付かされた。


もう一冊。『地上の記憶』は
酒飲みすぎで昨年亡くなった漫画家の短編集。というか遺作集。
大友克洋高野文子と親交があったようだ。メッセージを寄せている。
冒頭の「陽子のいる風景」がよかった。
父と暮らす娘の、淡々と過ぎ行く日々。
夏。いとこ夫婦が訪れてきて、花火大会があって。
そうか、小津か、『東京物語』か。
何も起きない映画、何も起きない小説ってものに憧れて
僕なりに取り組んでみたことがあった。
全然うまくいかなかった。読んでてふと、やっとわかった。
切り取った枠の中では確かに何も起きていない。
しかし、その枠の外では物語が大きく動いているのだ。


他にも読んでみたいと思うが、
『10月のプラネタリウム』という作品は amazon の中古で在庫なし。
いつか見つけたい。