Fiona Apple 『The Idler Wheels』

そういえば、Fiona Apple の昨年のアルバム
『The Idler Wheels』について書いてないな、と気づいた。


2005年発表の3枚目『Extra Ordinary Machine』から実に7年ぶり。
その間何があったのかは知らない。
調べればすぐ分かることだろうけど、まあ、いいかと思う。
天才だから。
感情と理性の絶え間ない衝突の中で
のた打ち回る地獄の日々だったのではないか。
『The Idler Wheels』で遂に
向こう側へと突き抜けてしまったように感じられた。


1曲目の「Every Single Night」
http://www.youtube.com/watch?v=bIlLq4BqGdg


不気味な谷底に広がる魔女養成学校の門をくぐったかのよう。
以下ひたすら、魔女養成カリキュラムのごとく奇矯な曲が続く。
最後の「Largo」の一見なんでもない普通の曲調に、
現実世界に戻ったかのような安堵を抱く。
しかし、何度もアルバムを通して聞き続けるうちに
彼女はここに戻ってきたのではなく
更に別の異次元へと向かったのだという錯覚を抱くようになる。
鏡の向こうに鏡の世界があるというとき、
そこは「ここ」と言えるだろうか?


「Largo」(しかしこの曲はボーナストラックなんですね)
http://www.youtube.com/watch?v=fk40koLh5BY


しかし、彼女は無から全てを作ったのではない。
あるとき僕は、この音楽は、
彼女が無意識のうちに耳にしたアメリカの最良の音楽の
モザイクなのではないかということに思い至った。
黄金時代のミュージカルであるとか。
それが彼女の記憶と意識を通すうちにこのような形を取って現れた。
夢の中の世界のように。
そう考えると、なんだか深い。奈落の底のように。
この作品を完全な正気のうちにつくったのだとしたら、怖い。


次のアルバムはさらにまた7年待つことになるのか。


Johnny Cash との共演。
「Bridge Over Troubled Waters」のカバー。
http://www.youtube.com/watch?v=wcaOLPi6CWk