2回目のバスが来て乗り込む。やけに年季が入っている。
桟橋に沿って線路が延びている。
バスが止まる。下りる。ああ、19年ぶりのロシアの地を踏む。
大雑把で飾り気のない建物たち。
錆付いたバスがオブジェのように静止し、黒い犬が群れを成す。
長いこと行列に並んで入国審査を終え
(特に何も言わず、パスポートを差し出すだけ)
外に出ると旅行会社のガイドの方が待っている。
僕よりも年上の女性の方だった。日本人かなと思ったらカタコト。
イリーナさんと言った。これから4日間お世話になる。
その後ユジノサハリンスクの町で多くのアジア系の人たちを見かけた。
樺太時代に朝鮮半島から労働者として連れて行かれ、
ソ連に返還されても故郷へ帰還することを許されなかった人たちの子孫か。
ドライバーの男性の運転する車でコルサコフからユジノサハリンスクへ。
北海道拓殖銀行の建物や旧樺太鉄道の線路(今も使われているのか)、
町の唯一の信号などを通り過ぎる。
アニワ湾沿いにしばらく走って、内陸に入ると高速道路のように飛ばす。
植生は北海道に近いのだという。そう言われてみるとそんな気がする。
公営住宅はいかにもロシアっぽいけど、三角屋根の家はどこか日本っぽい。
崩壊寸前の骨組みと外壁だけの建物を時折見かける。
これは樺太時代というよりも旧ソ連時代の建物なのかもしれない。
途中で茂みの中に黒い馬の像のようなものを見かけた。
祈願する対象なのか色とりどりの紙が結び付けられていた。
ユジノサハリンスクの市街地に入る。
シティモールという最近できたユジノ最大のショッピングモール。
郊外にあってこれはさすがに後から一人で来るには遠すぎる。
車社会。たくさん走っている。バスも。
ジープを大きくしたような黄色の乗りあいタクシー? をよく見かける。
中心部に近付いて渋滞に巻き込まれる。
いつものことなのかと思いきや渋滞の先頭に来ると交通事故だった。
ホテル「ガガーリン」へ。ツアーの人たちもここだった。
チェックインの手続きはガイドのイリーナさんがしてくれる。
パスポートをフロントに預ける。
明日の待ち合わせの時間を確認したあとで
他に何かありますかと聞かれて僕は
レストランを紹介してほしいとリクエストする。
近くでよければ案内するということになってそれでいいと。
荷物を部屋に持っていくこともなく、リュックサックを担いだまま外に出る。
すぐ裏が観光名所のガガーリン広場。その入口のレストランへ。
ガイドブックにも乗ってない普通の店だった。
イリーナさんに説明を受けながらメニューを見る。
ボルシチ(195ルーブル)、肉じゃがっぽくて選んだ羊肉の煮物(430ルーブル)、
黒パン、そしてロシアのビール(100ルーブル)。
後で支払いが楽なように計算したものをイリーナさんに頼んで用意してもらう。
〆て725ルーブル。日本円の感覚で安いなと最初思ったけど、
よく考えたら日本円に換算すると約3倍だから約2,200円。結構な値段。
高級レストランでもないけど、庶民にはなかなか難しいか。
ここでイリーナさんと別れ、一人で食べる。
ボルシチを食べて、ああロシアだなあと和む。ビールも悪くなかった。
100ルーブル札8枚で支払って、75ルーブル帰ってくる。
チップの習慣がないのが分かりやすい。
店を出てガガーリン公園を少し見て回る。
まだ18時半(日本時間16時半)で外は明るい。
射的場とか夜店の屋台のような店がいくつか並んでいる。
そこに若者たち(なぜか丸刈りが多い)が群がっている。
賑やかなロシアンポップスが大きな音で聞こえてきて、
野外ディスコなのかロシアの女性たちがノリノリで踊っていた。
ホテルに戻って荷物を置く。すぐ外に出る。
夜に飲むウォッカを探す。ホテルに売店はなかった。
ブラブラと近くを歩く。「Продукты」(products)とあるのが
雑貨屋だったかと入ってみたら当たった。
ハムやチーズ、コーラといった食料品を扱っていた。
ビールやウォッカもあって、「Натояшая」というのを買った。
ナターシャと読むのかと思いきやよく見るとナスターシャだった。
270ルーブル。釣りは硬貨だった。
日本で両替できないのでうまいこと使いきらないといけない。
22時(日本時間20時)を過ぎてようやく外が暗くなる。
海外旅行でよくそうするようにスポーツチャンネルをつけっぱなしにする。
アメリカの大リーグの試合。英語の実況中継にロシア語をかぶせる。
これまでに撮った iPhone の写真を整理する。
アルバム4枚分を空けて 400M の容量があるはずが今日の朝尽きた。
まだ足りないのか…
時間があったので小説Uの手直し3周目を始めて、
その後浴槽にお湯を溜めて入る。浴槽の中で髭を剃る。
ウォッカを飲みながら『飛魂』の続きを読む。
これはすこぶる面白い。これは書けない。
午前1時半(日本時間23時半)に眠る。
隣の部屋から鼾が聞こえる。