『ブルージャスミン』

昨晩、会社の帰りに映画を見に行く。
銀座のシネスイッチでウディ・アレン監督の最新作『ブルージャスミン
ケイト・ブランシェットがアカデミー主演女優賞。
http://blue-jasmine.jp/


いつからなのか。シネスイッチの壁には終戦後の銀座を写した写真が。
モノクロじゃなく、カラーなんですね。
保存状態がいいのか、どれも鮮やかな色を残している。
ワシントン靴店教文館書店の建物が今ほどの大きさじゃないにせよ通りに並んでいた。
有楽町の駅前は相変わらずゴチャゴチャしていた。
松坂屋松屋が接収されてPXとなっていた。
黒澤明監督の『生きる』が完成したと垂れ幕が下がり、
ヒッチコック監督の『レベッカ』が上映されていた。
デパートの前に大勢の人が群がって、
入り口に大きな将棋盤が掛けられ、将棋の駒が貼り付けられている。
それらの駒を動かす人と、その横の机でラジオ中継を解説する人。
大山康晴名人と升田幸三名人の一局。よくこんな写真が残ってたなあ。


平日夜の回はガラガラ。
サリー・ホーキンス扮するジンジャーのもとに、
ケイト・ブランシェット扮するジャスミンが転がり込む。
二人は共に里親に出されていた。
サンフランシスコに済むジンジャーは
パットしない男とばかりつきあってきて今はバツイチ、子供二人あり。
ジャスミンはニューヨークで浮気症な大富豪の男と結婚して
セレブな生活を送っていたが全てを失って今は文無し。
ウディ・アレンお得意の軽妙洒脱なコメディかと思いきや、案外重たい。


役者のうまさもさることながら、脚本のうまさ。さすが。
今回はキャラクター造形の手際のよさに注目して観る。
例えばジンジャーの付き合ってる男が一目見てダメな男なんだけど、
1シーンだけ登場するその友だちたちってのも同じくらいダメな男たちで。
それがセリフがなくても一目見て分かるようになっていて。
カウチに座ってボクシングの中継を見ながら缶ビール飲んでるとか、
ありきたりなステレオタイプなんだけど。
意外性というものを潔く捨てて曖昧さをとことん排除する。
なんかそういう曖昧なとこに芸術性を求めてるうちは二流なんでしょうね。


毎日新聞の日曜の別冊に映画批評が載っていて、こんなことが書いてあった。
ウディ・アレン監督はいい脚本が書けたらいい役者を呼んできて
演じるとはなんぞやといった青臭い議論はなしで
好きにやらせてそれを撮るだけ。だから早いと。
(金銭的な都合もクリアしてるからだろうけど)年に一本新作が公開できる。
しかもパンフレットを読んでいたら、
ウディ・アレンは何度も撮り直すということをしないそうだ。
ただし、現場にはもちろん緊張感がある。
なるほどなあ。
ウディ・アレンの話法というか話術というか話芸というか。
その完成しきった魅力に僕らは浸るのですが。
ああ、そうか。これでいいんだろうなあ。
というか20世紀初めのサイレントの映画たちってのも
余計なものはなくて、こんな感じで撮っていたのではないか。


映画館を出る。
キャバレー「白いばら」はちょうど
年配のお客様がタクシーを呼んで帰るところだった。
着飾っていたホステスたちが大勢その周りに群がっていた。
その間を縫って、銀座のネオン街を歩く。