客車のドアを開けて目の前の空いている四人掛けの席に沈み込んだ
コートの襟元にこびりついて半分解けかかった雪を払った
見ると向こうは平野の果てまでを覆う暗闇と点々と連なる明かり
その周りを白いものが激しく舞っている
目を閉じて客車の揺れるくぐもった音を聞く
遠く離れた席の低い早口な話し声
川を渡る橋を渡る繋ぎ目があるその汽笛が響く
終えて静かになる次の駅まで恐らくまだ遠い
いくつもの駅を越えて一人二人と背中を丸めて去っていった
この車両どころか隣の車両にももはや誰もいないだろう
山の中に入ってカーブに差し掛かり車輪がレールを挟んで軋む
横切った国道を行き交うものはない
足元のヒーターが不器用な振動をやめていつか途切れる
車両もまた何の前触れもなく停車して暫く経つ
天井のスピーカーが何かを囁いている
木々の間に真新しい雪が積もっている
ウトウトして気が付くと車両はゆっくりと走りだしていた
何事もなかったかのようにゴトゴトと揺れていた
相変わらずここは僕一人だけだった
ポケットの中の切符を握りしめた
終点の駅に着いてホームに下り立った
あるはずの町はそこに無く夜はさらに深まっていた
明かり一つきりの無人駅の出口に切符を入れる箱がある
外に出て僕はさらに北へと目指して歩き出した