お見舞いに行く

午後、お見舞いに行く。
白金高輪にある北里大学の病院だった。
(ちなみに「北里八雲牛のコンビーフ」を母がよく取り寄せていて、僕も分けてもらう)


日胆石を取ったばかり。
午前中はフラフラして具合が悪かったと言っていたが、それもだいぶよくなった。
小さな広口瓶に蓋をして、中に小さな、最大でも5mmぐらいの黒い石がいくつか入っている。
これが胆石なのだという。確かにこの黒ずみ加減は身体に悪そうだ。
僕は勝手に白っぽいものを想像していた。琥珀のような。
「こういうものだったら僕の体内にもありそう」
「聞いたら誰だって胆石は抱えていて、それが悪さをするかどうかの違い」


胆石だけを排除するということはできなくて、胆嚢そのものを切除する。
また再生するということはない。それを聞くと恐ろしいと思う。
切除すると太りやすくなるという。体質が変化する。そういうのを聞くのも怖い。
どれだけ現代医学が発達してもできないことがまだいくらでもある。
もしかしたら10年後か20年後には切らずに手術できるようになっているかもしれない。
そんなことをつらつらと考えるとき、iPS細胞ってすごい発見なんだなと思う。


見送り。点滴を受けたまま廊下を歩く。
キャスターのついた点滴台をお供にして、左手で押しながら歩く。
AIBOが作れるぐらいだったら、点滴台をロボットにすればいいのに。
 歩く人の速度に合わせて動くだけでしょ? 簡単なはず」
「そうだな。医療の現場ではもっともっとロボットが必要。
 患者を抱きかかえるロボットの開発が進んでるとどこかで読んだけど」


休日の病院は大きな待合室も人気がなく。
守衛のおじさんも暇そうにして、面会受付のおばさんと立ち話をしている。
外に出る。隣の建物は大学の講義棟だった。
夜勤で交代する看護師と思われる女性が早足でこちらに向かってくる。
現代的な病院はきれいで、静かで、何の匂いもしなくて。
死と隣り合わせという感覚がしなかった。
小さい頃の記憶にある病院は薄暗くて雑然としていて、鼻につくエタノールの匂いがした。


夕暮れ。駅へと向かう。
知らない町、知らない空。
自分の健康をありがたく思う。