宇宙人が今この時代に地球に来るとしたらいったい何が目的だろうか?
普通に考えたら調査や旅行のためであって、侵略戦争や平和の使節ではない。
本当に侵略したいのなら、その科学力で持って既にして一瞬で終わっているだろう。
宇宙人が攻めて来ると考えるのは、20世紀の半ばまで、
先進国の国家的規模の課題を解決する手段が戦争だった頃の名残、その投影ではないか。
同じように、あからさまに武力を持って植民地をつくることもない。
もっと巧妙な、裏口からの支配となるだろう。
人目につかないように暗躍する。
…そんなふうに考えるのも同じように冷戦時代のスパイ活動にファンタジーが感じられた時代か。
そんな時代も終わって、CIAやそういった組織の時代があって、カオスの度合いが高まった今、
空飛ぶ円盤や宇宙人というものが何かの投影としての象徴的な存在ではなくなって
話題にされることもなくなった。
日本だとテレビで特番を組まれることもない。
今の若い人たちは「矢追純一」や「マジェスティック12」と言われても
何のことかきょとんとしてしまうだろう。
それは一方ではネットの普及もまた絡んでいるように思う。
情報量が爆発的に増えた今、信じるに足るほどのリアリティはそこにはない。
像を結べなくなっている。
何かもっと別なものに人々の欲望は向かっている。
それはこちら側ではなく、ネットの向こう側に存在するもの。
そのときもし宇宙人というものをイメージするとしても強大な敵というよりも
得体の知れない、コミュニケーションのとりにくい隣人なのではないか。
曖昧な輪郭で、表情というものを持たない。
それはいったい何のためにこの地球に来ているのか、そこで何をしているのかわからない。
想像がつかない、というより、理解ができない。
僕らの生活にひっそりと紛れて、普通の人は気づくこともない。
彼自身の目的を満たしたならば、何事もなかったかのようにそこからいなくなっているだろう。
そんなことを淡々と考えるとき、
僕らの生活は何かを失ってしまったのだなということを思い出す。
どこに向かうのかわからない、分断された世界。