キャラクターを考えていて、
酒を飲むと霊感が強くなるというのはどうだろう、と思った。
2・3杯飲んでるうちは平気なんだけど、
酔いが回ると見え出す。
男は今晩もいつもの赤提灯へと向かう。
カウンター7席と小上がりのテーブル4人席だけの古い店。
路地裏にあって、普通の人は見逃すような地味な佇まい。
無造作に並んだごちゃっとした置物があちこちで茶色く色褪せている。
壁に貼ったメニューも何が書いてあるのか読めない。
小さな音でテレビがつけられている。
年代物の、アンテナが伸びるやつでブラウン管も変色している。
男はコートを着て背中を丸め、歩く。
縄暖簾をくぐってがたついた引き戸を開ける。
店主は「らっしゃい」と声をかけるが、男は無言のまま。
その日もまたいつもの右端の席に座った。酒と肴が出てくる。
チビチビと飲み始める。小鉢を突く。後から焼き鳥が三串。
常連客がチラッと男の方を見る。
男の横はいつも開いている。誰も座ろうとしない。
お銚子が2本目に入る頃、見え出す。
隣の席に幽霊が座っている。
男は幽霊の話を聞く。
自分からは話そうとせず、語るに任せ、時々相槌を打つだけ。
しかし話を聞いてもらえてスッとした幽霊たちは晴れやかな顔をして消えていく。
男は酒を飲み終えてたった一言、「ごっそさん」と言って席を立ち、
背中を丸めて出て行く。
カウンターには千円札が2枚。
そういう舞台設定で毎回幽霊たちのエピソードが語られる。
場末の酒場に現れる幽霊なので一癖も二癖もある。
時々噂を聞きつけて亡くなったあの人を呼んでください、と頼みに来る人もいる。
店主も常連客も幽霊は見えない。
でも、ただ頷いている男が何をしているのかは知っていて、そっとしている。
男の去った後も店は開いている。
テレビドラマならばその赤提灯を映し出して終わる。