東海道新幹線放火

昨日の東海道新幹線内、
小田原付近での自殺と思われる火災事件がとても気になっている。
ドローンを首相官邸の屋上に飛行させた40歳の男性の事件は
まあそんなこともあるよな、ぐらいで特に気にならなかった。
今回の事件はなんだかゾッとする。
僕らの日々の生活のこちら側と向こう側とを結ぶ、得体の知れないものがある。


71歳の男性が「のぞみ225号」1号車のデッキにて
ポリタンクに入った油と思われる液体を頭からかぶってライターで火をつけた。
車内を撮影した映像を僕も見た。
ぶれるカメラが客車の奥の方を映し出し、
白く煙った中から咳き込んだ乗客が身をかがめて避難する。
逃げそびれた52歳の、無関係の女性が亡くなった。
鉄道関係で働く先輩は facebook でニュースをシェアして
せめてもの救いはトンネルの中で起きなかったこと、と言っていた。
確かにそうだ。そうなっていたときの被害は甚大なものになっていただろう。


昨日から断片的に伝わってくるニュースで
油をかぶる直前に周りの乗客に数千円のお金を差し出して
「拾ったからあげる」と言ったというのを見て、
精神的に不安定な人が半ば発作的かつ計画的に自殺を行ったのだと思っていた。
少しずつ状況がわかってきて、どうも違うらしい。
先輩は「貧者のテロ」と呼んでいた。
そうなのだ、これはあえて見ず知らずの人を、この社会を、
巻き込むための自殺だったのだ。


容疑者として杉並区のアパートが家宅捜査されるのだという。
周囲の発言では大人しい人だったというものと
部屋の中にダンボールが詰まれて異様だったというものと。
後者は恐らく、事件を起こした人物を異様なものとして扱いたい心理からか。
どんな些細なことであれ大袈裟に取り上げてしまう。


「社会の闇」と呼ぶのは簡単で、
この事件もいつかそのように分類されて忘れられていくのだろう。
いや、その前に。
同じような事件が伝播・連鎖して「貧者のテロ国家日本」が生まれていくのか。
無差別の犠牲を伴う、恐ろしい出来事の始まり。
冒頭にも書いたようにドローンの事件よりも底知れぬ怖さがある。
しかもそこに孤独な死が結びついている。
僕らは日々の暮らしに垣間見える焼けただれた穴を、
見てみぬふりをして過ごしているのだということ。
そこに巻き込まれないでいることを心の底では願っているのだということ。