盆踊り '2015

先週夜、会社から帰ってくると近くの小学校の前の通りに提灯がかかっていた。
付近の店がお金を出して作ったものなのだろう。店の名前が入っていた。
盆踊りかもしれないね、と話す。
土曜の昨日、外出していたら妻から LINE にメッセージが入って
花火の音がして外が賑やかだと。やはり開催されているらしい。


日曜の今日、買い物の帰りに通りがかったら提灯はそのままに、
校庭には屋台が並んでいた。土日続けてなのか。
19時を過ぎて妻と見に行った。


校庭に本格的な櫓が建てられ、子どもたちが見様見真似で踊っている。
その真ん中は火の見櫓のように高くなって太鼓を叩いている。
レンタルのアルミのではなく、年季の入ったもの。
紅白の幕で包まれ、提灯が煌々と広場を照らす。


子どもたちの部が終わる。
生ビールを買ってフランクフルトと焼き鳥を食べた。
妻はヨーヨー釣りを。子どもたちが綿あめに行列を作っている。
そういったテントのひとつひとつが素人の、おやじ会とか地域の集まり。
焼きそばを作りながら、とうもろこしを焼きながら、ビールを飲んで楽しそうだ。


20時になって大人たちの部が始まる。
ステージに浴衣を着た女性たちが上がって円になって踊る。
建前上は誰でも上がれることになっているのが、実際はそうではないのだろう。
皆うまかった。全員が踊りの師匠じゃないかというぐらい。
浴衣も安物じゃない。世田谷のマダムたちが気合い入れてやってるのだろう…
櫓の外、地面で輪になって踊ってる人たちもまたうまかった。
東京の人たちは小さい頃から学校で盆踊りを習っているのだろうか?
身体に型がスッと入り込んでいて皆パリッとしていた。
崩れていても基本をしっかり押さえている。
気軽に、うかつに、混ざれない。


ひとりその中にもやたらうまい人がいた。
浴衣をピシッと着た若い女性。とにかくキレがいい。
両手を引いて止めるところ、前に出して広げるところ、
目の前の空間をスパスパと切り裂くかのよう。
それでいて長年踊ってる感じはなく、絶えず櫓の上を見ながら動きを確認している。
その場で学んでいるのだろう。
ダンススタジオの先生なのだろうか。
踊りのイディオム数十ないしは数百パターンを知っているから
何が来ても組み合わせて対応できる、というような。
その動きはどこかラテン系な小気味よさだった。
僕と妻は「先生」と陰で呼び、一回りして目の前に来るたびに惚れ惚れと眺めていた。
最後2曲は炭坑節となり、先生はステージに呼ばれた。
元々誰か知っている人がいたのか、
それとも上で見ている人たちが「あの子いいわね」と見定めたのか。
後者だと面白いな、と思う。


茶髪にピアス、ポケットからはヴィトンの財布。
いかにもヤンキーふうな30代の男性も気持ちよさそうに踊っていた。
この人もまたうまかった。
小さい頃から盆踊に参加していたのだろう。
この人もまたステージの上で踊っている人たちに視線を送っていた。
初めて踊っているふうではないのに?
よく見るとそこには奥さんがいるようで、互いにアイコンタクトを送っていた。
円の半径が異なる。何度か回っているとタイミングがあって同じ側にいることがある。
そんなときふたりは、子どもに戻るのかはにかむように笑う。
なんだかとてもいいものを見た。


火の見櫓の太鼓は主に子どもたちが叩いた。
どこで練習しているのか、皆それなりに叩いていた。
革を叩いてドンドコドン、端を叩いてカッカッカ。
まだ小学生みたいなのに歌心とグルーヴがある子もいれば、
楽譜通りではあっても変に2拍目に微妙なアクセントがあったり、
若さゆえのアピールが外している中学生の男の子もいた。
暴れ太鼓ふうなのに要所要所は押さえるという子もいる。
時々指導者役の大人が叩くとしまる。
踊りもしなやかになり、手拍子も大きくなった。


東京に20年近く住んでいながら、盆踊りというものを初めてちゃんと見た。
小平や国立にはあっただろうか?
荻窪の神社にもあったように思うがこんな規模ではなかった。
世田谷の住宅地ともなると違うな。
これが東京の底力か、なんて思ってしまった。