益子町の陶器市へ その2

今歩いてきた南北の「藍の道」と東西の「城内坂通り」の交差点にテントが立っていて
陶器市の地図や益子町のパンフレットが配られている。
通りを行き交う大勢の人、人、人。
年配の方ばかりかと思っていたが案外若い人が多い。
焼き物が好きというよりもアートなものが好きという感じの20代の女性たちや
賑わっているイベントで休日を楽しもうという小さい子を連れた30代の夫婦。
ホットドッグやたこ焼きを食べながら、缶ビールを飲みながら笑顔で歩いている。
道端の隅の方に立ち止まって邪魔にならないように気をつけて地図を覗き込んでいる。
小奇麗に身を飾った犬や猫を抱えたり、
カートに入れて押したりしている人が結構多かった。
最初に話を聞いたときには地味な印象を受けたけど全然違った。
確かにこれは益子町総出で盛り上げる一年で最大のお祭りなんだな。
テントの数は500。一日では、というか数時間では回りきれない。


通りは元々益子焼を扱っている店の中やその軒先で売っているだけではなく、
歩行者天国になった道路とその両脇の歩道を残して
空いているスペースというスペースにテントがびっしりと並んでいる。
許可証のようなものをどこかに掲示している。
益子町で焼き物を焼いている人もいれば栃木県内の近隣の町で窯を構えている人もいた。
端の方の人けの少ない裏通りのテントともなると京都を初めとして全国から来ているようだった。
陶器に限らず、オーガニック系の染物や木彫りの皿や小物を扱っているところもあった。
下駄の店もあれば、瓶に入った酒にスズメバチをつけたのを売っているおじいさんもいた。
地元の飲食店ももちろんテントを出している。
古くからの蕎麦や和食の店だけではなく、30代・40代ぐらいのカレーが多かったかな。
なんつうかヒッピー崩れの人たちがここに流れ着いて焼き物をやっているような。
こういった飲食によく表れているように
伝統的な益子焼の窯と引き寄せられてきたピースフルな若者たちで町は構成されているのだろう。


最初に入った藍染の店「日下田藍染工房」。江戸時代から続いているという。
古民家がそのまま工房となり、奥の部屋ではギャラリーとなっている。
もちろん中庭や入り口の部屋では販売も行っている。
広い小屋の中は灰色のコンクリート?の床に円い穴が整然と並んでいて巨大なたこ焼き器のよう。
そのひとつひとつに藍染めの絞り汁が並々と入っていて、
そこに年配の職人の方が益子木綿の真っ白な布をゆっくりと落としていく。
昔ながらの染めもありつつ、若手のデザイナーたちとのコラボレーションも盛んで
9月にはファッションショーを開催。
その運営資金はクラウドファンディングから集めていたという。
ギャラリーには昔ながらの木製の折り機がひっそりと飾られていた。
木々の下には籠にざくろを干していた。


通りのいくつかの店やテントに入ってみた。
同じく古民家を改装したギャラリーがあった。
陶器で作られた前衛的なオブジェが入り口に配置され、
中の部屋のいくつかでは陶芸作家の個展。
大きな部屋では皿や茶碗、箸置きが売られていた。
外のテントでは別の窯元が安ければ300円や400円で投売り。
そういうののたいがいが大量生産品なのか同じような色と形をしている。
弟子入りしてまずはそういうのを素振り感覚でつくるのか。
ちょっとした一点ものだと1,000円〜2,000円ぐらい。
一方で他よりも格式高い窯だとひとつの皿が1万や2万平気でする。
唯一これいいなあと思った秋刀魚を乗せる細長い、
白くてごつごつした長方形の皿は軽く2万を超えていた。
膨大な量の陶器にこれでもかこれでもかと囲まれているとクラクラして
「こういうの1枚ぐらい持ってみてもいいかな」などと思ってしまう。
危ない危ない。
焼き物のことは何も知らなくて益子焼も有田焼も美濃焼も区別がつかず。
これから先詳しくなるのかどうかもよくわからない。


それでも見ているうちによしあしというか自分にとっての好みが見えてくる。
そもそも下手なものはどうにもならないんだけど、
作家性の強いものは、というか一人前になったので自分の個性を出そうと
オリジナルなデザインや色合いでつくっているものはたいがいつまらない。
シンプルなものがいい。
日々使い続けるうちに色合いのわずかな変化や
全体的な角度のバランスの妙のようなものが見えてくる。
そういうところに作家の思いが感じられる。それぐらいでいい。
ミモフタモナイことを言うと
これと比べたら無印良品の皿の方が使いやすいし飽きも来ない、
そういうのが9割以上か。
何でわざわざこんな模様をつけるのだろうか。取っ手をひねるのだろうか。
パッと見の個性を求めているようではその陶芸作家はまだまだなんだな。
ということがよくわかった。


僕がこの日買ったのは、障害者の働くパンや陶器の作業所でつくっている
益子焼のマグネット。パンのモチーフになっている子豚が描かれている。
ただ単にこれがもっともかわいらしかったから。安かったし。


…などと書いてきたけど益子焼によくない印象を持ったわけではなく。
陶器市はとても面白かった。
これは目利きになって思わぬ掘り出し物を見つけるのが楽しいのだな、と思う。
本来なら毎年通って、趣味の合う窯元をひいきにするのがいいのだろう。
また来年来てみてもいいかな。


そういえば大きな店のひとつは埴輪専門店だった。
立派な店舗を構えているから売れるんだろうな。
全国の埴輪需要を一手に引き受けているのか。
1億数千万も人口があれば100人か200人はコアな固定客がいるのか。
冠婚葬祭も春夏秋冬も関係なし。
どんなときに売れるのだろう。買い換えるのだろう。
もしかして中学校の歴史の授業に使う??