霧の中

朝、家を出たら霧の中。
数十メートル先は灰色に煙って何も見えない。
雨は町並みをいつもとは違って見せるけど
霧は別世界のように、いや、もっと正確には別世界の入り口のようにしてしまう。
向こう側には地理的にも時代的にも隔たった架空の世界が待ち受けているかのような。


テオ・アンゲロプロス監督の『霧の中の風景
まだ幼い姉と弟が国境を越えた先には霧が広がっていた。
スティーブン・キング原作、フランク・ダラボン監督の『ミスト』
ある朝霧に覆われて孤立した村に異形の怪物たちが現れ…


小さい頃、雲に入ってみたかった。
綿菓子の中を歩くようなものだと思っていた。
それから何年も経って山頂付近を進んでいると辺りは霧に包まれている。
下りて見上げると低い雲がかかっていた。
あ、そういうものなのか。
打ち上げ花火を平面だと思い込んでいたのが球形だと知る。
それに似た感覚があった。


霧の向こうにいつもとは違う世界が待ち受けている、
という考え方はなかなか捨てがたい。
二子玉川駅のホームに立つと多摩川にかかった橋が伸びていて
渡ったすぐ先には二子新地の駅がある。1分もない短い区間
そこから来る電車は霧を突き抜けてこちら側へ。
それは僕をどこかへと連れ去ってくれるような気がしたが、
ホームに入ってきたのはまあ、いつもの電車だった。
ウルトラQの最終話『あけてくれ!』を思い出した。


霧が晴れていくとまたいつも通りの日常が待っている。
その徐々に消えていくというのもいい。
ロンドンは日々こうなのだろうか? と思う。どうなんだろう。