巡回上映


今はどうなのかわからないけど
僕の小さい頃は地区の公民館や集会所で映画を見るということがあった。
小学校一年生のとき、下北半島むつ市に住んでいて、
父に連れられて月光仮面を見たことを覚えている。
とても狭かったところにぎゅうぎゅうに詰めていたので
もしかしたら民家だったのかもしれない。
今調べたら『月光仮面 THE MOON MASK RIDER』という映画らしい。1981年。
なんだかかなり異色の映画っぽい。


小学3年か4年の時には津軽半島の先のほうにある
祖父母の住んでいた村落の集会所で『南極物語』を見た。
畳の上で最初は体育座りをしていたけど、最後の方は寝そべって。
やんちゃな子どもが駆け回って「静かにしなさい」と怒られる。
それでも最後の再会の場面では皆が泣いていた。
ああいう映画の見方もいいものだな、と思う。


どちらも昭和の匂いのする出来事だった。
その後こういう市井の上映会に出会ったことがない。
青森でも東京でも。いや、あったのかな。
僕が気がつかないだけで。


ひとつ言えるのはあの頃はまだフィルムの上映だったということ。
カタカタと音を立てて、ぼんやりとしたビームのように
光がスクリーンに伸びていく。
その中を細かい埃が舞っている。
16mmフィルムを映写技師が上映したのだろうか。
人気のある映画は全国の僻地を巡回していたのだろう。
なんか聞いたことがある。
たぶん、レンタルビデオが普及してから廃れて行ったのではないか。


こういう巡回上映のことを調べてみると面白そうだし、
流れ者の映写技師を主人公として
旅先で出会った人たちとの一夜限りの出来事、みたいな作品を書いてみてもいい。
寂れた海辺の街。映画が一年に一度だけ来る。
土曜の午後。子どもたちに交じって制服を着た高校生の女の子が
ひとりポツンと映画を見ている。終わって女の子は静かに集会所を後にする。
その日の仕事が終わって「僕」は夕暮れの町を歩く。女の子がいた。
夜は大人向けの上映を行う。探すとやはり、女の子がいた。
さっきと同じ端っこの椅子に座っていた。
そこは例えば、斜陽の炭鉱の町であるとか。
女の子は何らかの事情でそこを離れることができない。
そんな感じで。