「光のノスタルジア」「真珠のボタン」

渋谷のアップリンクで「光のノスタルジア」「真珠のボタン」の2本立てを見てきた。
月神保町の岩波ホールでやってたんだけど、落ち着いたら行くかと思っているうちに
気が付いたら終わっていた。
続けて上映してくれるところがあって助かった。
http://www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/


チリのドキュメンタリー映画の監督パトリシオ・グスマンの作品。
前者が2010年で、後者が2015年の最新作。
チリの大自然、世界一乾いているというアタカマ砂漠につくられた天文台
1970年代から10数年続いたピノチェト政権による圧制の被害者たち。
これらが共通のテーマとなる。チリという国を象徴する3つか。


「光のノスタルジア」は天文台そのものが主人公となる。
その周りの砂漠に政治犯の遺体が埋められていて(もちろん墓があるわけではない)、
今も家族たちがその遺骨を探して地面を掘り続けている。
ある日突然逮捕され、拷問を受け、行方不明となり二度と帰ってこない。
一方で天文台ははるか遠くの美しい銀河系の映像を捉える。
このふたつが重なりあって、独特なスケール感を生む。
我々の記憶とはなんであるか、過去とはなんであるか。
物質としての我々はなんであるか。
静かに問いかける。


ラストシーンにて砂漠を掘り続けていた老婦人二人が天文台の巨大な望遠鏡を覗く。
その時に見せる笑顔。
何を表しているのかを言うのは難しい。赦しとか癒しとかそういうことではない。
なにかもっと人類と地球の根源に問いかけるようなもの。
シーンがとてつもない意味の広がりを獲得する。
映画的な感動があった。


子どもの頃に遊んだビー玉を映し出して、グスマン監督は言う。
「宇宙の壮大さに比べたら、チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。
 でもテーブルの上に並べれば、銀河と同じくらい大きい」
今年を代表する一本だと思う。


「真珠のボタン」はその続編として
星は背景に一歩退き、水がメインテーマとなる。
国土のうち4,200kmが海岸線であるという南北に細長いチリ。
その発展の歴史は舟を巧みに操る海のノマドであった先住民族
虐殺することで成り立っていた。
以来、植民者たちは海というものを忘れてしまう。
それは後にピノチェト政権において殺害した政治犯を秘密裏に捨てる場所となり…
死骸が流れ着く。


なお、一頃ネットで話題になった「ヤーガン族」とはパタゴニアの「セルクナム族」とのこと。
http://japan.digitaldj-network.com/articles/12750.html
彼らは宇宙を表す絵を自らの裸体に描いたのであった。